2019年5月30日木曜日

平城宮は唐風

20180427

 平城宮も奈良公園と同じで外国人がたくさんいる。さすがに奈良公園ほどではないが中国人もたくさんいる。彼らはこの遺構や復元された大極殿、朱雀門などを見てどのように思っているのだろうか。彼らと話したわけではないが、彼らが平城宮観光の後、投稿しているネットや動画を見ると、歴史的な郷愁を覚える人が多いようである。歴史的な郷愁とは1100年以上前に滅びた『大唐』に対するロマンである。中国は唐が滅びたあと元や清などの異民族の王朝に支配され、特に近代(20世紀初めまで)中国を統治した「清」は風習や衣服、髪型から、建物の様式に至るまで清朝独特の形式を広めたため、中国に現代まで残された「唐風」はほとんど滅びたかかなり変質を受けていて、むしろ平城京や平安京の建物や遺物が多く残っている、奈良、京都に「唐風」の郷愁を感じるのである。

 「なんや、やっぱ、日本文化は中国文化の亜流やな(枝分かれ)」

 と中国人が威張っていいそうだが、日本人からすれば、ちょっと待ってくれ、決して亜流ではないと言いたい。むしろこちらが正統な継承者、そのいいかたが尊大ならこういってもいい、そっちの大陸では滅びたものをこちらが受け継いで保存発展させたものであると。

 これにはたくさんの証拠があるが、ブログで紹介するのは次の二つだけで十分だろう。

 まず第一、唐時代の宮廷で使われていた調度、什器、衣服やそのほかのこまごましたものが今、大陸で残っていますか?それらは王朝の交代時に起こる混乱(兵火)によって失われたのである。それも念の言ったことに唐が滅びた後、何度も王朝の交代があって兵火によって前王朝の文物が失われたので唐時代のものなんかが後の王朝に伝わることはほぼない。確かに中国の博物館に行けば唐時代のものが展示されていたりする。しかしそれは発掘の結果、土から掘り出されて、きれいに修復したものである。よくて散逸して寺やあるいは民家にあったものを拾い上げて鑑定した結果価値がわかったもので、いったんは無価値なものとして見向きもされなかったものである。唐の時代から伝世で代々受け継がれたものは極めて少ない。

 一方日本は、8世紀の平城宮の宮殿で使われた調度、什器、衣服が「正倉院」に伝世のものとして代々1300年も受け継がれている。一度も兵火による散逸などはなかったのである。明治の初めに日本に来たモース(貝塚の発見で有名であるが日本文化の紹介者でもある)は驚きをもってこう述べている。
 「この正倉院の御物は、イギリスで言えばアルフレッド大王の宮廷のものが(9世紀の王様なので正倉院の8世紀よりまだ百年新しい)そっくりそのまま残っているのと同じで、ありえないような驚きである。」

 また、建物にしても奈良、京都にはこの時代から残っている寺院が(それも木造)が存在する。(一度も焼けて消滅しなかったという意味で、木造だから修復は何度も加えている、これは西洋の石造建築も一緒)、唐様式を受け継いだ建物が一度も消滅することなく存在するのである。

 以上は唐時代の文物そのものがどれほど大切に残されているかの違いであったが、次に述べる第二の証拠がむしろ正統性を主張するのにいいかもしれない。

 1300年以上も昔の唐風、それの継承の正統性を主張するのは、今現代、多くの庶民(日本、中国)にどれだけその唐風というものが時代の変化は受けつつその大本を継承されているかを見てみるといい。そういった意味で今に残る伝統衣装の違いに注目するといいかもしれない。現代中国での伝統的な中国服は、チャイナドレスや男なら清朝時代の官吏や裕福な大人が着ているものがそれにあたる。千数百年前の唐時代の、ゆったりした呉服、広い帯、垂れて振れるような大きな袖の服の伝統は、多くの変転を繰り返した最後の王朝の清朝で無残なくらい断絶してしまった。

 南朝から隋、唐にかけての衣服の正統な継承が残っているのはむしろ大陸ではなく、日本の「着物」である。今の中国の伝統衣装(清朝時代のものしか現実にはあり得ないが)と日本の伝統衣装である「着物」を比べてどちらが正統な継承を主張できるかは一目瞭然であると思う。

 4年前に京都の清水さんへ紅葉見物を兼ねてお参りしたとき、多くの参詣客が着物姿で歩いていたのにはびっくりしたが、そのほとんどが日本の貸衣装の着物を着ていた中国人と知って二度びっくり。
「なるほど、彼らも、どっちが唐風かはよく知っているんじゃないだろうか」 どっちの国が正統かを主張するのは大人げないので私もそこまでは言いたくないが、彼らも奈良京都を観光してみて内心、日本のほうが唐時代のものが多く残っていると思っているのだろう。

 平城宮跡のはずれには今、『天平いざない館』があり、中に当時の衣服が展示されていた。これが少しづつ発展して1300年後日本の伝統和装「着物」になるのである。


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