2019年5月31日金曜日

歴史ゲームのリアルさ?その5鎌倉武士のイケメン度

20180622

 元寇歴史ゲームのヒーローの顔をまずご覧ください。

 どうです?イケメン云々より、ずいぶんリアルな顔であるのにまずびっくりします。特別な顔でなく、まず日本の街角のどこかにはいるような兄ちゃんの顔をしています。だからよく見ると、誰かに似ているような~? え~とテレビで見た有名人かな?いや、このあいだ飛び込みで営業に来た屋根ふきの若い職人ににてるなぁ~、いやいや、駅の自動販売機に清涼飲料水を補充していたコカ・コーラの兄ちゃんに似てるとか、ともかくリアルすぎて現実の誰かに重ねてしまうほどである。

 そのうえで武士としての能力の高さもプラスし、たった一人で蒙古の大群に立ち向かう雄々しさを加味し、あらためてこのヒーローを見ると、

 「カッコいいし、イケメンだわ」

 というのが一般的な評価じゃないだろうか。

 さてそこで実際に鎌倉時代にこんなカッコのいいイケメン武士(現代人が見ての)がいたのかどうか調べてみることにします。歴史の検証は古文書によるところが大きいのだけれども、鎌倉時代の古文書にいくら、見目麗しきおのこ、とか述べてあっても何せ800年も前の人の美醜判断ですから、うのみにはできません。やはり絵画資料で確かめるのが一番いいですね。何度もこのブログで引用している鎌倉時代の絵巻物が最も適しています。

 でも絵巻物といえば顔の様式が決まっていてイケメンかどうかわかるのかな?と疑問ですよね。例えば鎌倉時代の直前に作られた源氏物語絵巻の美男子(もちろん貴族)はいわゆる「引き目、鉤鼻」と定型です。鎌倉時代になってそんな描き方に革命的変化が起こり写実的になったのかも、と鎌倉時代のある絵巻物を見ると

 なんだ!やっぱ、「引き目、鉤鼻」のお定まりの顔。しかしこの男性は都から地方に下向した国司、いわば貴族です。貴族はこのような定型的な顔で描かれますが、地方の武士、庶民は結構リアルに描かれているのです。

 その証拠を見せましょう。この貴族の右にいる姫の顔は上図ではあえて隠してありましたが、これをお見せしましょう。東国のある豪族の娘ですがこの顔をみてどう思います?

 美人?醜女?鎌倉時代でもこの娘さん、気の毒に醜女として描かれています。それもいみじき(程度の甚だしい)醜女として。かなりリアルな描き方ですね。今、この女性が現代に現れたとしてやはり同じ評価を下す人が多いんじゃないでしょうか。

 このように鎌倉時代に描かれた絵巻物では貴族は除いて、武士、旅人、遊芸人、庶民などはけっこう写実的に描かれていますから、そのなかから中世ゲームのヒーローのようなイケメン武士がいるか見てみましょう。断定的な価値判断は私はしません。見られた皆さんで判断してください。

 まずは若い鎌倉武士の生活より。左は領地の見回りの時とか、スポーツとしての狩りの時の格好。鹿皮の行縢(むかばき)をはいていますね。りりしくカッコよく描かれていますね。右は館における普段の姿、直垂の服装でかぶり物はいつもつけている。さてイケメン度はどうでしょう?

 鎌倉時代の武士道はいわゆる「弓馬の道」、武士としての鍛錬は下図ように騎射である。やっぱりカッコいいですね。

 館での日常生活でも武芸の鍛錬以外にも武具の整備などにつかわれました。武士にとって強弓は自慢の一つ、誇示できるだけでなく、強い戦力にもなります。下図の左では三人がかりで弓の弦を張っています(かなりな飛弾力のある弓です)。右ではその強弓を力いっぱい引いています。顔を真っ赤にし頬を膨らまして力んでいますね。五月人形や最近で言えばメジャーの大谷がフルスィングでホームランをかっ飛ばしたときに頬を膨らまし力んでいた顔を思い出しますね。イケメン度云々より雄々しい姿ですね。

 

 この絵巻(主に男衾三郎絵巻)では貴族⇒鎌倉御家人⇒侍⇒庶民・アウトローな人(野武士、遊芸人)と身分が下がるにつれて描き方のリアルド度が増しています。中世の生き生きとした生活を知る上にはうれしい傾向ですね。
 そのアウトローな野武士・夜盗が正式な武士を襲う姿が下図、右の野武士の槍が馬に刺さり、左に描かれている武士も馬もパニックになっているようです。みんな野性的な顔をしていています。男は顔ではない!雄々しさだ!度胸だ!というような人はこんな顔の人も好みじゃないでしょうか。ところでこの右上図の野武士を見てください。

 拡大しますと、顔が白い、他と比べてそう白いとは思われないでしょうが、頬が赤いですね、これは透き通るような皮膚の白さで血管が頬を赤くしているとわかります。そして髪は(長年月の間に絵の具が脱色してるが)茶髪っぽいですね。そして鼻が高く、目も大きい。手足も長そうです。このひとあらゆる点から白色人種の特徴を示しています。

 日本の北方にはアイヌがいて、彼らの皮膚は白く、目が緑や灰色の人もいますし、髪も栗色系です。顔のホリも深いから、もしかするとアイヌ系の野武士かもしれません。ということは東国から(この絵巻は東国が舞台)陸奥にかけては、白人に間違うような人もいたから、現代を基準としたイケメンもいたに違いありませんね。

 最後に当時の武士の肉体美はどうだったんでしょうか。今は草食系男子とか言って、男性のイケメンもあまりマッチョな美は要求されていないようですが、鎌倉時代の武士は違います。肉体的な劣勢は不利どころか死につながります。弓馬の道に鍛錬を重ねた武士はさぞかしマッチョであったろうと思われます。しかし、日本の中世美術では古代ギリシャのように裸体の筋肉美の男性の絵画や像は残念ながらありません。しかし一遍上人絵伝の中に水遊びをする武士の姿が描かれていますから、それを見てみましょう。
 遠景(京の桂川)を拡大したため画像が荒くわかりにくいですが、水浴びする若者の肩や臀部のむっちりした肉置き(ししおき)は筋肉美と言っていいんじゃないでしょうか。この時代の闘う若者ですからマッチョでないはずありませんね。

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