2019年5月31日金曜日

中世大崩落

20180502

 ネット配信の洋画ドラマ『ダークエイジ・ロマン大聖堂』は毎週水曜日に配信されている。今日がその6回目であった。前のブログでは第二回目の聖堂炎上を取り上げた。今回は火事で炎上して建て替えた大聖堂がなんと崩落するのだ。前回のブログでは紹介した火災による大伽藍の焼失を日本中世の東大寺大仏殿炎上とあわせてブログにしたが、今回の大聖堂大崩落も日本中世史上に似たことはないかと考えた。

 でもなぜ大聖堂の崩落が起こったのか。もともと建て替え前の聖堂は一見、石造の大伽藍のように見えるが、石造部分は垂直の壁や柱部分であり、天井は木造の梁、天井板であったのである。屋根の骨組みも木造、その上に瓦を載せたものだったのである。だから火災で水平部分の天井などの木造部分がもえ煙突状態となり、石造りの壁も柱も崩落したのである。


 新造の大聖堂は天井部分も石材を組み合わせたアーチ構造にして聖堂全体を石造にしたのである。アーチにすれば石材だけでホールを覆うことができ、石材だけでとじられた空間を作ることができる。しかしこの構造からもわかるようにアーチ部分の石材の一つ一つに微妙に計算され形作られた楔形の石材が必要である。そして天頂部分にはキースートーンを配し、絶妙のバランスの上にアーチが形作らなければならない。

 最初の(中世初期)は天井を覆うアーチは単純なかまぼこ型であった、しかし図を見てわかるようにこれだと一面壁になり壁のところどころに窓を開けても(たくさん開けると天井アーチが耐えられない)採光が悪く、暗い。そこで新しく考案されたのがアーチを組み合わせることによりアーチ部分の重力を柱に集中させることができる交差ヴォールト式ドームである。これだと柱で支える構造だから壁は基本的に必要なく極めて広い窓が取れる(ここにステンドグラスなどを配置する)。

 ドラマでは聖堂建築士が亡くなり、その息子が引き継いで天井の部分を石造とし、完成させるが、多分腕が未熟だったのだろう。竣工後時を置かずして天井は大崩落を起こす。その大崩落がよりにもよって、国家的な儀式の途中に起こるのだからドラマとしてはこれほど見せ場のある場面はそう多くない。国王や大貴族、司教、聖職者、もちろん庶民も大勢大聖堂に集っているなか数十メートル上にある天井のアーチの石が崩落し落ちてくるのであるから、下は大パニックとなる。

 



 このドラマ、まるっきりフィクションではない。国王も対する女帝も12世紀の英国史上の実在の人物である。ではこの聖堂大崩落が実際あったかを調べてみると、各地に作られていた大聖堂は時とともに傷んで小崩落は少しずつ起こっていたようだが、こんな劇的な大崩落は起こっていない。ましてや国家的な大行事の途中で死者79人にも達する(ドラマでは)ような大惨事はない。

 さてここで日本中世史の大崩落である。似たようなことはないか探ってみると、ありました。それも日本史のほうは国家的な行事の最中に起こっていましたから、こちらのほうが実際に起こった大崩落ではインパクトがありますね。14世紀の中頃、京都の河原で時の将軍、宮様、公家、各大名が出席し大々的に行われた勧進能の最中、桟敷がバタバタと将棋倒しに崩落を起こし、死者数百人、負傷者は数知れず(宮様も腰を負傷した)の大惨事になったのです。

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