2019年5月31日金曜日

人参考

20180508

 長らく生きているといろいろなものの変遷を自覚する。野菜、果物なんかもその一つである。大根、人参、林檎、梨、など昔からあったが、近年大きく変わってきた。色や大きさばかりか味も劇的なほど変わったものもある。昔と品種が違っているといえばそれまでだが、みんな大ぶりになり、全体的に甘く、本来の野生に近い状態の時に持っていた、その野菜や果物独特の味が薄れてしまっている。

 人参なんかはその最たるものでないだろうか。私が子供の時から、人参は江戸時代から栽培されていた和人参と明治以降入ってきた洋人参とがある。この場合の洋人参であるが昭和20~30年代のものとは味が大きく変化している。昔はこの味のため子供が人参嫌いになっていた。人参嫌いの子どもが多かったのである。ところが品種改良の結果か、最近の洋人参は子供の時に嫌ったような味はなくなり、マイルドに甘くなったのである。だから最近はピーマンは嫌いだが人参は嫌いじゃないという子が増えている。

 そもそも人参の原種ってどこだろうか?調べると中東のアフガニスタンあたりらしい。その原種が栽培されだして西へ行ったのが洋人参になり、東へ行ったのが東洋系の人参となった。東洋系の人参が日本に伝わったのは意外と遅くて16世紀のようだ。洋人参は明治以降となる。いまわれわれの賞味している人参は洋人参系ということになる。

 この人参の味の変遷を思う時、紀元前かはたまた起源後か知らないがアフガニスタンあたりに自生していた人参の原種を初めて口にしたとき、かなりなエグミというか、きつい野生人参の味がしたと推定される。もしかすると初めは根の部分より葉っぱの部分のほうを山菜として利用したのが初めかもしれない。パセリに似た葉はこれはこれで独特の味があるが、汁物に香味野菜的な使われ方をしたのではとも考えられる。

 チンマイ子どもの味覚は純粋で人間の持つ本来的な好みを持っている、その子供の多くが昔の品種に近い人参の味を嫌うところを見ると、野生から発見されたばかりの山菜の「人参」はドッとばかりに広く普及したとは考えにくい。中東から日本に伝わったのが16世紀とは如何にも遅すぎる。先月奈良の平城宮跡で発掘された壺の遺物を見たが、なんとこれは中東のイラク(昔のメソポタミヤ)産の壺である。8世紀にはるばると中東から平城宮に伝わったことを思うと、この時代の中東原産の人参、あんましおいしくなかったので伝わるのも遅かったと推定される。

 8世紀平城京で発掘されたイラク産の壺(破片)、青い釉薬が如何にも中東風である。これとともに人参はもたらされなかった!

 これをやはり中東あたりに原産を持つ瓜と比べてみるといい。瓜はご存知のように、汁気が多く、甘く、果肉も柔らかで淡白である。瓜は万人に受け入れられる味覚や舌触りを持っている。そのため瓜はあっという間に西や東に急速に広まり、日本にはなんと縄文時代に早くももたらされているから、人の好みがあれば普及するのも早いということである。そして伝播とともに瓜の品種も多くなり、香りがよく蜜の味のするメロンまで生まれるのである。瓜と人参、中東からよ~~~いドン、で日本に向けて走ったが、味が独特の人参はそうとう遅れて日本に到着した。

 だが人参の効用ということで考えると、そもそも初めから野菜として見られていたかどうかは疑問である。もしかすると、いやかなり可能性のあることとして、この野生種の人参、体に良い、薬に近い食材として認識されていたのではないだろうか。人参の栄養分析表を見て驚くことは極めてビタミンが多いことである。そして抗酸化作用(老化防止作用もある)や抗がん作用のある幾種類ものカロチノイドが含まれ、葉っぱも含めると、なんと理想的な栄養食品となるのである。おまけに葉物野菜でなく根菜類でもあるため糖類も含まれており、カロリーも取れることになる。素晴らしい食材である。野生種を発見した古代人はこの人参を、ちょっと味が独特で万人受けではないが毎日食べれば病気にならない薬菜として認識していた可能性が高い。

 人参が薬、といえば、今では???、という人がほとんどだが、江戸時代ならば、当然。もっともこの人参は野菜の人参とは違う。しかし、江戸時代に「人参」といえば、こちらが主役、今は、高麗人参とか朝鮮人参とか言われるものである。せり科である野菜の人参とは全く違うもので、高麗人参はウコギ科植物である。「人参」という言葉もこの高麗人参からきている。根が人の形をしているからと言われるが、野菜の人参の根もよく似た形をしているため同じ人参の言葉が使われた(こちらは昔は区別のためセリ人参と言われた)。百聞は一見に如かず下の図をご覧ください。

 この高麗人参は江戸時代、漢方薬の王様、金と同じ重さの価値があるといわれるほどその薬効に対する信頼は大きく、ほとんど信仰のようであった。「高麗人参」を病気のおとっつあんに食べさせるため、孝行娘が遊郭に身売りする話は、時代劇の定番となる。

 もちろん高麗人参と野菜の人参はその根の形がよく似ているというだけで、全く違う植物であるが、野菜の人参に含まれる栄養素を考えると、野菜の人参も健康増進に極めて資するものに違いない。大昔、中東の山岳に住んでいた人が山で山菜や木の実を探していた時、パセリによく似た葉の植物を引っこ抜いたところ、根が意外と長く太くズルズルと出てきて、持ち上げてみるとなんと、人の形をしていた。霊感に対する感受性の強い古代人である、これを不吉とみるか、いや人の形に命の元をみて、食べて自分に同化させてやろうとするか、しかし、食材として栽培されたことを考えると後者であろうか。

 野菜不足が心配な、ワイ、てんごろやすくそれを解消するために某飲料メーカーの、一日一本これで一日の需要量の野菜350gが摂れる!のキャッチフレーズの野菜ドリンクをよく買って飲んでいるが、この主要原料は、トマトと人参である。 

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