揚子江河口付近まで日本から順調に東シナ海を横断した。距離でいえば98パーセント達成である。28日には海の色、飛ぶ鳥、海の深度などどれをとっても陸が近いことを表している。みんなやれやれ、ほっとしたのではないか。
しかし、飛行機でもそうだが高空を長距離飛行するときよりランディング(着陸)が一番事故率の高いのは承知のことである。この遣唐使船でも同じである。まして8世紀の脆弱な船である。浅瀬による座礁、陸に向かって打ち寄せる波、陸地近くの複雑な海底や大河流入水による千変万化する潮の流れなど、実は危険がいっぱいなのである。
その危惧は現実となる。28日の夜になって・・・・・ まずは原文で記述を見てみよう。
『爰に東風切に扇ぎ、濤波は高くして猛し、船舶は卒然走って海渚に昇る。乍ち驚いて帆を落とすに、柁角は摧折すること両度なり。東西の波は互いに衝いて船を傾け、柁葉は海底に着して船の艫は将に破れんとす。仍て桅(帆柱の意味)を截り、柁を棄つ。船は即ち濤に随って漂蕩す、東波来れば船は西に傾き、西波来れば東に側つ。船上を洗い流すこと。勝げて計うべからず。船上の一衆、仏神に憑帰して誓祈せざるなし、人々は謀を失う。大使船頭以下水手に至るまで裸身にして褌を緊逼す。船は将に中絶せんとし、遷って艫・舳に走り、各全所を覓む。結構(船べり)の会(あわせめ)は瀾(おおなみ)に衝かれ、為に咸(ことごとく)皆差脱したれば、左右の欄端(てすりのはし)に縄を結んで把牽し、競うて活路を求む。淦水(あか)汎満し、船は即ち沈んで沙土に居る。官私の雑物は淦水の随(まにま)に浮沈せり。』
どうですか漢文の読み下し文?漢文の読み下し文は漢文(古代中国語の文章)をできるだけ忠実に日本語で読むため助詞、助動詞を書き加え、また漢字を日本語に近い意味の言葉に読んだものです(訓読みといわれる)。だから上の文章をひらがなをのぞいて漢字だけにして並べ替えると100%漢文になります。ほとんどの漢字は現代でも使われていたり目にしたりしていますから大体の意味は分かりますね。
意味
(暗くなると)東風が急に強く吹きだし、波は高くなってその勢いも強くなった。船は急に思いがけない方向に走り、浅瀬の州浜のような部分に乗り上げた。こりゃぁ、いかん!と急いで帆を畳むが、舵も予備の舵も壊れてしまった。波は両翼から押し寄せ、船が次第に傾いてくる。舵の壊れた板は海底に突き刺さったようで船の艫(後方部分)が今にも壊れそうになる。そこで帆柱を切り倒し、舵も捨ててしまった。だから船は波に従って漂流する。両翼から押し寄せる波で船は大きく右左に傾く。大波のため船上はどこもかしこも波で洗われ、右に左にと流れ漂う、人々はみんな神仏に祈願している。人知ではどうすることも出来ない。ふんどし一丁になりきつく締め直す。(気合の為か何かの御まじないか)
船は今にも真ん中からポキリとへし折れそうになっているので、真ん中を避け人々は艫や舳部分の安全と思われるところに移動している。船板の接合部分を補強する材はみんな取れてしまった。船上の欄干部分に縄でわが身を縛り付け何とか流されまいとする。船体の中にも水は入り込み満ち満ちていて船は増々重く沈んできて浅瀬の砂の上に着いてしまった。船中に充満した水は波の動きや船の傾くによって積荷はあちらこちらに流れている。
もうほとんど大陸についているのに最後になって大風と大波に(小嵐だろう)舵も帆柱も切り離さざるを得なくなり漂流し、そして座礁する。ここまで読んだ時点では人的被害については記述がないからまだ無事であろうが、この先いったいどうなることやら。
こんな状態になっていたのだろうか(東征絵伝絵巻より)
夜は何とか明け翌29日暁、大陸はそうすぐそこ、無事行きつけるのか
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