2011年9月10日土曜日

伝統と世襲

 日本は世界の中でも「老舗」が最も多く残っている国と言われている。ある本によればもっとも古い老舗は宮大工の職人集団だそうで、西暦600年代に法隆寺を建てたというから中途半端な古さじゃない。
 また名前は忘れたが京都にある老舗の和菓子屋は、桓武天皇が平安京へ引っ越すときに奈良からついてきたといわれている。平安遷都って「鳴くよウグイス平安京」で年代を覚えたように西暦794年、千二百数十年前、もう気の遠くなるような古さである。

 まあそんなに古くはなくても創業が江戸時代ぐらいだと数えるのも大変なぐらい、それこそ無数に存在する。比較的新しい江戸時代って言っても400~150年もの昔である。
 私の身近にも、大学時代の古い友人だが味噌屋をしているのがいて(なんか漫画「もやしもん」みたいだけど)、確か創業は江戸後期の「天保時代創業」って言ってました。

 日本では十数代つづく老舗などザラ、3代くらいだと恥ずかしくて老舗などと称せない。
 老舗などが多く存在するのは日本では当たり前のように思っているが、世界的に見るとほんとに稀らしい。
 いつも偉そうに中国4000年の歴史、とか朝鮮半万年の歴史、などと盛んに歴史の古さを主張する中国、韓国にはたった3代つづく老舗もないそうである。

 いくら古い歴史を誇ろうとも、それは死蔵され、地中に埋没した「遺跡」「遺物」ではしかたがない。本当に歴史が生きて脈々と波打つためには、世々を経て、人から人へ歴史の証拠が伝えられなければならない。
 それが「生きた歴史」、すなわち「伝統」になるのではないか。

 日本においてこの「老舗」や「伝統」が途切れず長く続いたのは「世襲制度」によるところが大きいと思われている。
 「世襲制度」と聞くと、今の民主主義の世で各人の自由意志や個々の人格が重んじられるはずの現代社会において、因循・固陋、古い封建的な制度と思われています。

 わたしも若い時は、「世襲」などというのは古い封建制度の名残で唾棄すべきものと思っていました。
 しかし、今は、変化の激しい現代社会において絶滅せずに老舗や伝統を伝えてくれた「世襲」に対し、否定的には考えていません。

 日本の世襲制度は決して純血統主義にもとずく「一子相伝」ではありません。これは家の存続においても言えます。実子に世襲する能力がない時は廃嫡し、店なら使用人の中から、伝統お家芸の場合は弟子の中から有能な人物を「養子」にし、世襲を図ったのである。
 世襲の弊害を養子によって補うなかなか合理的な制度である。

 古くから残っているものをむやみにありがたがるのはどうかと思いますが、世界最古の老舗や老舗の数が世界の国で日本がダントツ、などという話を聞くと歴史・伝統好きな私としてはうれしく、自分の国を誇らしく思えてきます。

 老舗・伝統・世襲、はいったん途切れたらそれでおしまいです。作るにはまたその時点でゼロから始まります。何百年続いたものでも、古臭いものはいけないと破棄すれば永遠に失われます。
 伝えるのは非常に難しく、途切れさせるのはいともたやすいことを思うと、

 「よくぞ、持ちこたえ、今まで伝えてくれました」

 と感謝したくなります。だからそれに力を貸した「世襲制度」に対してもわたしは肯定的なのです。

 次に意外なものの「伝統」を「世襲」と絡めてお話ししましょう。

 TVや週刊誌、スポーツ紙などの芸能ネタ、はっきり言うと芸能人の醜聞(スキャンダル)には、うんざりしますよね。
 お笑い出身の尊大な司会者SSが裏社会と付き合っていただの、歌舞伎の御曹司がぶん殴られただの、しょうもないゴシップなどです。

 この芸能人の醜聞にも我が日本は文化的伝統を有するといったら驚かれるでしょうか。
 なんと350年の伝統があるのです。以外でしょ。
 話し変わりますが、先物取引市場の嚆矢はシカゴあたりかなと思いますが、ところが違います!江戸期の大坂・堂島が世界初なのです。
 芸能界の醜聞ネタをもてはやすのも19世紀末あたりのニューヨークの新聞かな、と思いがちですが、なんの!日本は350年も前から、芸能人の醜聞ネタに大騒ぎしてたんですね。

 当時も木版画による刷り物、ゴシップ記事(役者評判記など)やプロマイド(役者絵)などが大量に出回りもてはやされました。ゴシップネタを載せる媒体はあったのです。

 その中から世襲の市川団十郎家はスキャンダル、ゴシップ供給の宝庫でした。
 まず、いちばん古い初代、300年前、初代団十郎
 彼はあろうことか、舞台の上で同業の役者に刺殺されてしまいます。めったにない特Aのスキャンダルな事件です。というか、いくら現代の芸能界がドロドロしてるといっても、同業の役者に刺殺されるなどまずありえない。
 次は8代目
 彼は非常な美男子で人気も高かったんだけれども自殺してしまいます。今でも芸能人の自殺は大ニュースですが、今以上のトップスターだった8代目の自殺は当時の世間を揺るがすほどの事件でした。死後も「死に絵」、や「三途の川を渡る八代目」の錦絵や読み物が飛ぶように売れたとか。

 初代から9代目が江戸期の団十郎なんだけれども、彼らには上記以外にも不倫、三角関係、痴話喧嘩、男色、役者同士の喧嘩、大借金、逃避行、あっと驚く結婚話、名乗りをあげられない親子関係など、小さなスキャンダルは枚挙に暇がありません。

 芸能スキャンダルにも日本はこんな古い伝統があったんですね。

 ここで茶飲み話を一つ、

 歌舞伎の大名跡のトップは「市川団十郎」です。現在は白血病から回復された12代目です。
 その団十郎襲名の前の名は歴史的に言うと「新之助」か「海老蔵」です。だから息子の海老蔵がやがて13代目を継ぐことになります。この海老蔵、その前は「新之助」といいました。
 20代の頃の「新之助」は若い女性を歌舞伎に引きつけました。けっこうもてはやされ、多くの女性ファンが騒ぎました。
  歌舞伎のファンは思い入れが強く、並みのアイドルとは違います。アイドルに「さま」をつけるのは歌舞伎のみです。(最近、破格の人気でヨン様というが、これは歌舞伎以外では珍しい)

 で、「新之助」をもてはやした女性ファンは、彼のことを

 「しんさま!」

 と呼びました。あれれれ、どっかで聞いたぞ!(゜.゜)  

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

 最後にズッコケました。歌舞伎界にもいたんですね、しんさま。Google で検索すると14.00万件もヒットするので私のブログなんぞは20ページめくっても出てきませんでした。そんなもんでしょう、だってヨン様の二番煎じですから誰でも考えることですよね。そろそろ改名しようかな〜、やっぱ面倒くさいな〜実は私のラッキー音は「ki」なんで「きんさま」にしようかと考えています。(-^〇^-)

yamasan さんのコメント...

 20代のちょっとふっくらした美少年の写真と「しんさま」というネーミングはすっかり頭の中に入りました。
 私は目が悪いもので遠くはよく見えないし、訓練中はあまり近寄って話ししたことなかったため、現実はほとんどイメージがありません。
 このネット上の写真・しんさまが私の実体となりました。これを変えると、変化に対応できぬ私は、全く別種の人として認識してしまいます。

 もしどうしても変えるとするなら、私に合わせてブ男、お笑い系でお願いします。