2011年2月15日火曜日

駅 STATION

 川島駅で列車に乗るため待合室に入ると、でかい丸々と太った猫が待合室の椅子の座布団の上で鎮座している。黒地にところどころ赤のブチのような縞模様のようなどちらともわからぬ模様が入った猫である。そんな毛の模様はお世辞にも綺麗とはいえず、うんと汚した雑巾で床に落ちた卵の黄身を拭いたような毛色の猫である。(ほんとに汚れているわけではありません)
 おとなしい猫で私が触れても逃げないでじっとしている。のどの下をなでてやるとあごを上にのばしゴロゴロいう。ずいぶん人というか駅で乗り降りする乗客に慣れているに違いない。座布団の下の床を見ると猫ちゃんのエサ入れの容器がある。ここで居ついたままみんなが食べ物をやっているのだろう。丸々していて人に慣れているのも道理である。

 列車に乗ってから写真を撮ればよかったと気づいた。残念である。いま人気の「ブサカワイイ系」の猫のような気がする。様子から見てここにしばらく居ついてみんなに可愛がられているのであろう。
 この時、ふと思った。どこの駅か忘れたが、猫が駅長を務めている駅があるそうである。その猫の頭には小さな駅長帽がちょこんと載っている。写真や動画で紹介されると、ちょっとしたブームになり駅を訪れる人、乗降する人がうんと増えたそうである。だいたい鉄道会社は赤字だから会社は喜んで猫の駅長をバックアップしているのだろう。

 このままこのブサカワイイ猫ちゃんが居つくなら、いっそ駅長の名称を奉ってはどうだろうか。実はこの川島駅、去年から完全に無人駅になり、駅員さんが誰もいないのである。私が猫の急所であるのどの下を撫でてもジッと気持ちよくしているぐらいおとなしい猫である。駅長として今まで通り椅子の座布団の上に鎮座してもらい、時たま、カメラサービスで小さな駅長帽を被ってもらえれば猫駅長の誕生である。いいと思うなあ。
 この川島駅の隣駅は「学」駅で、全国的に有名である。特に今の時期、この駅の入場券を5枚買うのが縁起物としてもてはやされている。鉄道会社の収入に寄与している。それに加え、すぐ隣駅で猫の駅長がいればこちらも有名になるだろう。収入増も図れるのではないか。

 などとよけいなことを勝手に妄想している。

 それにしても徳島線の駅は2~3の大きな駅を除いて去年ことごとく無人駅になった。それまでにも昼までしか駅員さんがいなかった駅が大半であったが、完全にいなくなり、駅もさびれたような、いっちゃあ悪いが荒廃の気配さえ感じるようになった。
 次に来るのは廃駅・廃線か、と思うと列車しか頼る交通手段のないものは辛く悲しくなる。

 まだまだ私も駅も若かった頃、この川島駅は四六時中駅員さんが何人もいて業務をこなしていた。最終列車を見送った駅員さんは何人かで駅舎の宿所で始発列車まで休息をとった。なんと待合室には売店まであった。

 この駅からでる最終列車は当時まだ存在していた小松島線を通って港から阿摂航路に接続していた。船中泊し近畿方面へ行く客が利用するのである。

 深夜近く出る最終列車を待つ乗客たちにとって待合室はさびしいものであっただろう。しかし、常に駅員さんがいてくれるのは本当にありがたいものである。
 最終の時間帯、駅前通りは人通りもなくみんな寝静まり、街灯も暗い中、煌々と明かりを照らし闇に浮かぶ駅舎はこれから旅立つ旅人にとって灯台のように心強いものである。

 分厚い紙の切符に鋏をいれ、鋏の切り口をつけてもらえばそれが改札。町内の顔見知りだと駅員さんとあいさつしたかもしれない。
 都会へ出稼ぎに出る人は夢と希望を抱いて出発しただろうが、中には人目を避けるため夜逃げ同様着の身着のままで故郷を後にする人もいただろう。最終列車には悲喜こもごもの出発劇があっただろう。

 そんな人々を駅はそこにいつもいる駅員さんと優しく見送ってくれた。

 跨線橋を渡りながら昨日の雪の残る駅構内を見たとき、30年前に見た映画「駅 STATION」の最終シーンがよみがえってきた。まさに最終列車が出発するシーンと同じアングルである。そして映画でも悲喜こもごも交差する最終列車である。感動的なエンディングなので30年たっても覚えている。
 急いで写メールに撮る。下図がそれである。

 
 

3 件のコメント:

yamasan さんのコメント...

 この「駅 STATION」という映画の最終シーンで八代亜紀の「舟歌」という曲が流れます。
 この駅のロケ、北海道の増毛という駅ですが、30年の間に何度も行きました。いいところです。
 DVDでレンタルしてます。わたしお勧めの映画です。

てるゆき さんのコメント...

猫の駅長は、和歌山電鉄だったような?
地方のJRは、みんなこんな感じではないでしょうか?
僕の希望としては、全駅、トイレを改修して、水洗で、バリアフリーにきれいにしてほしいです。

WHOchan さんのコメント...

渋い映画ですね「駅 STATION」。
高倉健さんといしたあゆみさんでしたね確か。
今度見ときます。
自分は大阪で働いていた頃よく終電を利用する時間まで働いたり遊んだりしていました。独特の人間模様がありましたよ。全部まとめて割といい想い出が多いです。駅は学校同様物語の宝庫ですね。
「猫の駅長さん」は賛成です。春に子猫が生まれたら鮎喰駅にも仕込みたいですね。