2022年11月7日月曜日

昨日の、鎌倉殿の13人、見た感想

  年始に放映がはじまったが、メインキャストの大泉洋や西田敏行のキャラがあまりにも「じゃらくれ」すぎているので、馬鹿馬鹿しくなり、ずっと見ていなかった。しかしその二人も消えて、最近はみるようになった。夏の放映が過ぎた頃から、鎌倉幕府の基礎を固めたいろいろな重要な政治的事件、各種騒動(和田合戦など)などがおこり、歴史好きとしては興味がある時期にさしかかっているので毎回見るようになった。

 私が一番みたい「見せ場」はやはり「源実朝暗殺事件」である。そろそろドラマもその時期にさしかかる。昨日の放映では「公暁」が京から帰ってきた。実朝の甥ではあるが暗殺の直接の下手人である。その人物も鎌倉で活動し、少しづつ暗殺に向かっての状況がつくられていくのだろう。このドラマでは暗殺がどのような展開になるか気になる。

 ドラマの展開はすこし置くとして、この頼朝暗殺事件は実証的な史実としてもかなりの謎がある。史学者のなかでも公暁(私は、くぎょう、と呼び慣わしているが、ドラマでは、こうぎょう、と言っている)単独犯をとる人もいるが、公暁は教唆されて行った、すなわち黒幕がいたのではないかと疑う人も多い。そこから各、史学者の推理であるが、その史学者が説く暗殺事件の解説は、まるで史学者が推理作家・刑事ドラマの脚本家になったのではないかと言うほど面白い。強く黒幕と推理されているのは、北条義時、三浦氏、京都朝廷方、などで他にも異説を唱える史学者も多い。専門家でも議論百出、それだけに歴史小説家や脚本家は自説も交えてこの実朝暗殺は創作の腕の見せ所となる。

 そこで今年の「鎌倉殿の13人」であるが、まだそのシーンもその予兆・準備も放映はされていないが、私の見るところ、このドラマでは北条義時と三浦義村の黒幕説をとっているんじゃないかと思われる。これは歴史学者の間でも唱えられている説である。黒幕が二人とは北条と三浦の内心の確執を考えると複雑だが、以前放映のやはり「大河・草燃える」(昭和54年)でもその説をとっている。

 それはこうだ。まず直接の実朝殺しの下手人は公暁とその取り巻きであることは間違いない。そして公暁に「父の敵は実朝」と吹き込み、教唆したのは三浦義村、しかしそれを知りつつ、何もせず見守るというか放置し、状況をそのようになるよう仕向け、結果、源氏の正統を断絶に追い込み、結果として傀儡将軍を立てる、という深謀遠慮の人が北条義時であるという。第一の黒幕の三浦義村はまったく知らずに義時の思うままに動いたのか、それとも薄々は知っていて(直前に知ったと言うことも考えられる)、最後は義時の期待に添うような展開(実朝暗殺、下手人公暁抹殺)にしたのか分からないが、いずれにしてもこの説では義村は義時の手のひらの上で踊らされていたことになる。

 以上は昭和54年の「大河・草燃える」(永井路子原作)の実朝暗殺の次第だが、今年の大河の原作者である三谷幸喜はかなり永井路子原作の大河を、少なくとも意識して作られているので、今回の実朝暗殺でも、黒幕のラスボス(究極のワル)が義時で、その従として義村がいそうな気がする。ちなみに私は一切、今年の大河の解説書など読んでいないので、もしかしたらそういった暗殺に至る「大河ドラマのこれからのあらすじ本」があるかも知れないが、放映を見るまでは知りたくない、さてどうなることだろう。

 それにしても新年からずっと見ないうちに(見だしたのは先も言ったとおり9月末くらいから)北条義時はえらいワルになっている、顔にも冷徹で敵を容赦せず抹殺できるような凄みが加わっている。それにひきかえ源実朝のまぁ、可愛らしいこと。素直で、和漢の書をものにするような教養人で京都の宮廷文化の典雅さを身につけている。そして他人(謀反人も含め)には優しい。絵に描いたようないい人である。ただし、意志は弱く、生まれつきのお坊ちゃんであるため、幕府創業から基礎固めのこの時期の政治家としては落第である。北条氏の強力な支えがなければ幕府は立ちゆかない。だからほとんど義時のいいなりである。

 昨日の彼を見ていると、あ~ぁ、鎌倉・室町、江戸とつづく幕府の将軍としては、もっとも人の良い、最高の教養人であるのに、やがて殺されるのだ、と可哀想になって来る。



 そしてこれは今回の原作者の脚色だが、源実朝のボーイズラブが切ない。義時の長男に泰時がいるが、これが心に秘めた実朝の最愛の人、もちろん告白など出来ない。当時も京の貴族、寺院の僧侶などに男性同性愛は大はやりで、別に隠すことでもないし、たとえ行為に及んだとしても何ら恥じることはない。

  私などは当時の風潮から別にあり得ない関係ではなく、もし、泰時も実朝の愛(告白すればだが)を受け入れたら、鎌倉将軍と執権の総領の息子の絆はこれ以上ないほど高まったと思われる。まさに、文字通り、君臣一体肉体の結合をさすのは言わずもがな)である。ただ、どうも歴史ドラマとは言いながら、三谷幸喜はんの大河におけるこのような創作的な恋愛は、現代の人間関係をもとに考えているようだ。まぁそうでなければ鎌倉時代の武士や貴族の心性・愛情表現など、そのまま現代に持ってきても視聴者の理解は得られないだろうが。

 だから実朝くんは、現代のボーイズラブの高校生のように、同性の泰時を愛しているのだが、シャイで打ち明けることなど出来ない。泰時はジャニーズ系の超イケメンだが、実朝くんの瞳の奥に燃えるような自分に対する熱情があるなどわかりもしない、ただ、父と違い実直に臣下として実朝くんに仕えるのみである。このまま推移し、鶴ヶ丘八幡の社殿前で、愛を秘めたまま殺される実朝くんは二重に可哀想。もし私が脚本家なら、せめて暗殺の前夜、告白し、泰時くんも受け止めてくれて、最後の熱い一夜をともにする、と、実朝くんのために書き直したい気がするが。

 しかし大昔の大河と違い、最近の大河はこのような同性愛のエピソードも挿入されるようになった。やはり現代の風潮である「LGBTの権利主張」が大きく影響しているのだろう。良いことではある。何年か前に「大河・清盛」があったが、あれで同性愛では史上有名な藤原頼長(左大臣・摂関家)が、清盛の腹違いの弟で若い家盛を抱きすくめ押し倒して体をものにするシーンがあり、それを見て少なからず驚いた、「よ~まぁ~、国営放送もここまでやるほど、啓けてきたか」と驚くとともに感心した。(もう10年前やわ、そのときのブログがある。ここクリック

 永井路子の小説(大河の原作となった)では同性愛は実朝ではなく、暗殺犯の甥の公暁が男性同性愛者として描かれています。これもフィクションですが公暁は若くして聖職者となりますから当時の風潮を考えれば可能性としては実朝より公暁のほうが同性愛に親しんだ可能性があります。これも三谷幸喜はんが永井路子はんの小説に影響を受けているのかも知れませんね。でも実朝が秘めた同性愛者でその相手が泰時とした今回のほうが、ずっと面白く感じられます。


 そして昨日の大河で驚いたことがあと二つあります。まず一つは、これも実朝に関係しているのですが、中国の陳和卿(工人とある)が実朝のところにやって来て彼とともに宋へ渡る計画を立て大船を作るのです。その陳和卿が登場したとき、私は思わず

 「あ、松山千春や、えぇ、珍しわ、大河に出たんやな」

 と驚きました。最後まで彼と信じていましたが後で調べると別人の「テイ 龍進」さんと分かりました。いやぁよー似とったわ。その陳和卿が作り由比ヶ浜で進水を待つ大船が、いざ進水となったとき、ビクとも動きません。大勢が加勢し力を尽くして引っ張りますが進水に失敗します。そのときの陳和卿のリアクションに笑ってしまいました。

 「アィヤ~、アィヤ~、アィヤ~

 といって頭をかかえ困惑するのです。私は思わず、おいおい、お前は、ゼンジー北京(お笑い魔術師)か、それとも漫才のミスハワイか、漫画の中国人でもあるまいし、本物の中国人がアィヤ~なんどといって驚き困惑の声をあげるか?

 そして二つ目の驚いたことは(これも笑いを伴う)、動かない大船を見て、御家人・八田知家の市原隼人と三浦義村(山本 耕史)も諸肌脱いで大船を引っ張るのを手伝うですが、両人とも見事な筋肉で(ジムで鍛えているのでしょうか)ムキムキマンです。史実では三浦義村はこのとき50歳くらい、もう一人の八田知家(市原隼人)は直前に幕府事務方の三善康信に、私とアナタは歳は変わりませんよ、というのですが、三善康信はこのとき76か77歳、そうすると似た歳といった八田知家の市原隼人は70歳代後半、それで筋肉ムキムキ、あり得ない!と思わず笑ってしまいました。

 この絵に描いたような中国人の感嘆の声「アィヤ~」と、70歳代後半設定キャラの「筋肉ムキムキ」は脚本家の、またしても「じゃらくれとる」ドラマのご愛敬でしょうか。

2 件のコメント:

carlos さんのコメント...

大河ドラマは、おもしろくもなくてもずっと見てます。
ケチをつけるためでもあります。ははは。
わたしは、源氏よりも平家が好きなので、鎌倉の田舎武士と京都の陰険な公家どもの鎌倉時代はあんまり好きではない。
日本人で最も日本人を殺した、織田信長も野蛮人としか思えない。だから、明智光秀は好きだな。
なんて、歴史は個々人が少なように解釈できるんで、興味深い。

それにしても、やまさんの博学と深い洞察に感心いたしております。

yamasan さんのコメント...

>>カルロスさんへ

 平家すき、わかりますよ。心情的には私も平家が好きです。「平家物語」が素晴らしい叙情詩的歴史物語だから滅びる平家に情を寄せてしまいますね。平家は一族、大きな内紛もなくみんななかよく一緒に滅びます、そこには平曲にのせた「滅びの美学」があります。

 対する源家三代とそれを取り巻く鎌倉御家人は角逐の連続でお互いを滅ぼし合って、北条が権力を握るまでは血みどろの争い、醜いですね、好きになれません。しかし幕府体制を固め、中世を開くためにはやむを得ないんでしょうかね。政治は因果なものです。

 明智さんに言及されましたが、彼も実朝以上の教養文化人で、室町の文化の精髄をものにしていたんじゃないかと思われます。私も明智さんがすきです。こちらも黒幕説が絶えませんね。

 話は変わりますが、信長の暗殺関連から、本能寺変は1582年に起こりますが、その2年前に月食と星食が同時に起こりました。それから400数十年ぶりに、その現象が今夜おこります。まさに世紀どころかミレニアム的な天体ショーです、私も眺めますが、同じ月をカルロスさんも一緒にみませんか。ちなみに最大の食は午後8時ちょうどくらい。