2022年11月21日月曜日

大河はん!そりゃなかろうぜ。


  昨夜の大河、実朝暗殺の直前で、次週につづくとなった。しかしもうそれぞれの役割はきちんと決まっていた。やはり予測したとおり、公暁を教唆し、あわよくば最高権力奪取をねらった第一の黒幕が三浦義村、そしてもっとも背後にいたラスボス(元凶)は北条義時である。この大筋は永井路子氏の小説と一致しているが、以前の大河の実朝暗殺との違いは、実朝側近の策士・源仲章も権力奪取に強い意志を見せ、実朝を動かして、なんと!鎌倉にある将軍府を京都六波羅に移そうと画策し、実朝も受け入れ、直前にそれを義時に打ち明けている。そしてそれにあきれた北条義時が最終的に実朝を除く決断をする。(京都へ鎌倉府を移すなどという史実があるかどうか疑問だ)

 とまぁ、三人三様の策をめぐらせる訳であるが、昨夜の放送の時点では、まだ義時の優位は確定していない。我々は史実として実朝とともに源仲章も公暁らによって殺されることを知っているし、三浦は飛び込んできた公暁を抹殺したことを知っているので、義時が最大の利益者であり、だから黒幕ではないかとみているが、三人三様の策略がどのように絡み、最終的に実朝、公暁、源仲章が殺されるのかは、次週ドラマを見なければ分からない。

 まぁ、次週楽しみ、といいたいが、それぞれ策士三人の計画が、まぁ軽いこと、これは例えると、悪人とまでは言えない不善を為す小人が、ホームドラマか学園ドラマで、罪にもならないようなコソコソした「悪巧み」をやっているようなもの、日本史上有名なこの実朝暗殺に関して言えば、みんな生きるか死ぬか、そして最高権力を手にできるか、どうかである。必死で綿密な計画を立てるのが普通であろうが、どれも軽率でおざなり感がある。どうも歴史ドラマである大河が、ホームドラマや学園ドラマ、せいぜいのとこ、お茶の間の2時間サスペンス劇場になっているみたいだ。

 私が仰天したのは、公暁の父の頼家の死の真相を知った実朝が(直前まで知らないとは不思議な話だが)、なんと、凶行の直前、公暁のもとに出向いて深く頭を下げ謝罪する、そして今日の拝賀式を利用して、ワイら二人で元凶(義時らをさす)をやっつけようではないか、と提案するのである(実朝が去ったあと、公暁がだまされるものか、つぶやくのでこれは成功しないことが暗示される)。これを見た時、思わずテレビに向かって叫んだ。

 「大河はん!そりゃなかろうぜ」

 加害者と被害者があらかじめ申し合わせていて、凶行にみせて二人の目的を達する、というのは、なるほど火曜サスペンス劇場の犯罪モノなら、ありそうな話だが、それを13世紀の鎌倉でやるか?断言してもいいが、こんなの史実どころか、毛もないだろう。確かに娯楽性の高い大河ドラマとしての脚色はあろう、実朝と泰時の片想いの恋などは想像力を働かせたものとして百に一つくらいは可能性のある話ではあろう、そしてそれをとりあげたらドラマは面白くなるが、この実朝と公暁の直前の密談はいくら何でもあり得ぬし、見ていてこちらが混乱してしまう。永井路子氏の実朝暗殺黒幕陰謀説のさらに上を行くつもりで、脚本家は考えたのかも知れないが、それではあまりにも複雑混乱をきたしてしているのではないかと言われてもしかたない。

 私は史実として、今まで実朝暗殺に対するいろいろな人の説のどれも信じているわけではないが、昨夜の大河をみて、

「これは、公暁ら単独犯説がもっとも信じられるわ」

 と思うに至った。これだけ怪奇とまではいわないにしても複雑で混乱した数々の陰謀の錯綜をみていると

「真実は単純なものに宿る」

 という格言を思い出す。史上有名なこの暗殺事件もそのように考えたらいいんじゃないかと思っている。最近、この実朝暗殺に関し興味が起こったので最新の学者の、それに関する説を幾つか拾い読みしてみた。その中には中世史の新書では珍しくベストセラーになったG教授もいる。するとどの学者も公暁単独説が真実に近いと断言していた(もちろん公暁一味も含む)。昨日のドラマの(私にとっては)混乱ぶりを見ていると、その思いを強くする。

 トップに君臨する者の突然の暗殺は、大きな影響をさまざまな人の上にもたらす。そしてそれに影響された人がまるで玉突きの「玉」のように、次々と他の玉(他者)を動かしていく、玉(人)はどの方向に跳ね返るか分からない、突然の事件に一瞬は呆然としても、すぐ正気を取り戻し、新たにもたらされた状況に、ある者は、自分にとってより悪くない方向に動こうとするし、またある者はそれを、より自分にとって有利な方向に持って行こうと動く、それが各玉がどっちに跳ね返るか分からず、次々と他の玉も突き動かすのである。

 結果、当時の人が誰も予測しなかった方向に全体が動き、新たな状況が作られるのである。これは最近起きた元首相の暗殺事件についてみるとよく分かる。逆恨み感の強い犯人によって引き起こされた殺人は(今のとこ黒幕がいるとの確証はない)、上記のようにおもわぬ方向へ全体を動かす。特に注意したいのは、暗殺によって引き起こされた状況を、ある政党は少しでも悪い状況にしないように動き、また別のある政党は、逆に少しでも自党を有利な状況に持って行こうと動く、各玉が衝突し、軋轢を繰り返し、全体は新たな状況に推移するのである。この各「政党」の動きを、鎌倉時代の「各氏族」の動きとみるとよく理解できる。

 以上のように考えると「最大の利益者が真犯人である」という、刑事物の通説は、歴史に関しては言えることではない。後世から見ると義時を中心とする北条氏が最大の利益者のように見えるが、それだから彼が黒幕であり、真犯人とは言えなくなる。史実は、公暁単独犯であったという最近の学説にもっとも説得力があると私は思っている。

 それにしてもこのドラマの実朝くん、ますます可哀想さが増す。素直でいい青年将軍が後ろ盾となる北条氏からは切り捨てられ、最愛の泰時くんとの恋も成就せず、心から謝って、公暁くんと二人で元凶を取り除こうとするも出来ず、殺されてしまうのだ。何重にも可哀想だ。

 下は、唯一、実朝くんが恋しい泰時くんに愛を告白しようとしたとき


実朝くんは和歌の恋の歌に託し泰時くんにラブレターを送る、その和歌。

 『春霞 たつたの山の 桜花 おぼつかなきを 知る人のなさ』 

 私が意訳すると(※ボク(実朝)と泰時くんのと間には、春霞がたつているようだ、ボクはこんなに恋に燃えているのに、隔てる霞のため、はっきりとはわからず、知ってほしい人には届かない、それは泰時くん君だ、ボクは切ないよぉ~

 を送るが、鈍で和歌の素養のない泰時くんは、わからない。人から、これは恋の歌ですと指摘され、実朝くんのところに、それを持って行って

 「あのぉ、これ、まちがってますよ、これ恋の歌ですよ」

 という。シャイな実朝くんは、あ、間違ってたわ、と笑いながら受け取るのですが、このシーン、このぉ~ぼんくらがぁ! と笑いながら突っ込みをいれるところだ。 

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