2020年10月24日土曜日

私の怪我からみた現代の診断と骨折の手術

 怪我の瞬間、ボキッという音を確かに聞いた、あるいはその後、感じたことのない痛みで、これはまず骨折に違いないと自覚はしたが、そんなこと自覚したところでどうにもならん、残っている1km弱の山道を必死で下り、救急車のお世話になり、救急指定の総合病院へ向かった。

 幸いだったのは平日の午後3時頃だったので各科の医師も含め医療スタッフが全員そろっていたのと整形外科にはこの時私以外の救急搬送患者はいなかったので診察もその後の検査・診断も素早かった。救急車に乗せられる前、怪我をした左足首を露出し、固定したとき怪我の部位を見たが、血の出ているような外傷はないが腫れで足首が大きく膨れ上がっていた。やはり大きな腫れは骨折に違いないとその時も思った。

 まずすぐにレントゲンを撮った。昔のフイルムの時代のレントゲンと違いデジカメと同じように瞬時に撮れて画像がモニターに映し出すことができる、撮影がすむとほとんど間髪を入れず医師がそれを見ながら話してくれた。開口一番、「骨折はしていないように見れるなぁ~」とちょっと疑問の残るような口ぶりで話し始めた。私としては瞬間、ちょっとホッとした、捻挫なら骨折ほど大ごとではないだろうと。しかし医師はしばらくレントゲン画像を見ているうちに、「いやぁ~、ちょっと、まてよ」、モニター画像に顔を近づけつつ「これ、骨折じゃ、ないのかな、いや、これ、骨折してるわ」、「CTを撮りましょ、CTを撮れば確実に骨折かどうかわかるから」、CT撮影も待つ間もなくそのままストレッチャァでガラガラ運ばれてすぐ撮影、大きなドーナツのような穴の中に足を入れて、撮影終わり、すぐまた診察室へ戻されたが戻るとはやCTスキャンの画像がモニターに映っている。何もかも早い。

 もどってきた私を見るなり、医師は「やはり骨折してますね」とモニターを一緒に見せつつ説明してくれた。それが下の画像(後でプリントアウトしてくれた)斜め一直線に骨折しているのがわかる。単純な骨折のようだが、よく見ると、骨折線を境に少し上と下の骨が微妙に食い違っている。


 「手術ですね」という。できたら今日しましょうか。といいつつ、看護婦に向かって準備やたぶん助手の医師か麻酔医のスケジュールを確認している。どこかへ内線でやり取りしていて、結局今日は都合がつかないので手術は明日ということになった。

 これに要した時間は(レントゲン、CTスキャン検査、そして医師の診断まで)20分たつかたたないかの素早さである。その時は思わなかったが後で考えるといくら平日のフルスタッフでの救急診察と言いながらこの速さに驚いた。

 この素早さを可能にした最大のものはいわゆる透視装置であるデジタル画像の処理の速さ、そして診断の精度を高めたCTスキャン装置であろう。特にCT検査の威力は素晴らしいものがある。レントゲン画像だけでは「?」疑問符がついていたが、CT画像をみたら、もう素人の私でもわかったくらいである。足首の骨は結構複雑でいくつもの骨で構成されている。そのため平面的なレントゲンでは他の骨が邪魔(影)になってわかりにくいのであろう。しかしスライス状に断面撮影しそれをコンピュタ処理し、立体にくみ上げると、複雑な骨も立体的な全容状態が明らかにされる。内部だろうが骨の状態は細かく分かる。これも瞬時の処理である。

 ところでよくCT、とわれわれ患者でも手ンごろ易く言っているが、この文字をフルで書ける人は少ない。私も聞きなれているがあいまいに理解していた。しかし入院して暇なので調べると、これは当然、医学英語の略語、日本語なら『断層X線写真』とでも言うのだろう。正式には

Computerized Tomography (scanner)

computerized はコンピュータ化する動詞であると中学生でもわかる。tomographyは聞きなれないがそのはず、ギリシャ語経由の学術語、しかし語源がわかるとけっこう覚えやすく一度理解すると一生残るからこのように覚えておくとよい。中高生なら英語で習っていて原子はatom,解剖はanatomy,というのは知っているだろう。この語幹に入っている-tom,というのはギリシャ語語源で「断」「切」という意味がある。接頭語のa-がついて否定で(a-tom、これ以上切ることができないもので原子)、an-は完全に、という接頭語がついて(ana-tomy、完全に切るで解剖)、じゃあtomにgraphy(ご存知のようにグラフィは画像の意味がある)が付くと、切断+画像(tomography)という術語の出来上がりである。

 診断は確定した、このあとの私の骨折治療は「手術」である。私がチンマイ時の骨折処置だとこのような骨折では手術はなかった。複雑骨折でもしない限り、骨折した骨の位置を正常位置に当てはめ、固定し、以後動かさないように石灰いわゆるギプスで塑像のように動かなくして最低でも一か月以上そのままの状態で自然に骨が再生しつながるのを待ったのである。しかしこれだと足にロダンの彫刻をくっつけたようなものでかなり重いし、歩行も困難、また何か月も関節、筋肉、腱を固めたまま少しも動かさないためギプスを撮った後、急には動かすことができず、大がかりなリハビリが必要となる。

 そんなわけで今は私のような骨折の場合は、切開して骨を正常位置に当てはめたら、金属具でバシッと留め、固定するのである。こちらの方がそのあとの動作にも不便が少ないし、リハビリも少ないかほとんどなくて済む、治りも早いのである。ただ金属具をはめるということを聞いたときは、それって終生体内に残しておくのかどうか気になった。医師に聞くと不都合がなければ残してもいいし、取りたい場合は一年以上すればとることもできるそうである。どんな不都合が、と聞くと、中には金属なので足が重い、とか冬、冷たいとかいう人がいるそうである。まあ、機能的にどうとか、痛みがあるとかいうものではなく、再手術してとらない人の方が多いようである。

 金属具だが、錆びるのはまずいし、またイオンなどが溶け出して有害なものは困る。いったい何の素材か、これまた手術前に聞くと「チタン合金」であるらしい。錆びないし、有毒イオンも溶け出さないそうである。またチタンは比重が軽く、強度も高いので骨の固定具に使用されているのである。要するに体内で骨を固定しておくのには最適の金属ということらしい。金も錆びないし有害ではないので昔は歯には補強材になど使われたが、体内に入れるには重いし、強度もいまいち、また高価である。やはりチタンが一番良い。

 手術あとのレントゲン写真、ちゃんとチタン金具が入って固定されている。手術時間は正味一時間余り、腰椎の下半身麻酔で行われたので意識ははっきりしていて手術時のことはよく覚えている。


 先ほどCTの説明でtomography(断層画像)はギリシァ語が語源といったがこの「チタン」もまた由緒正しいギリシァ語である。ギリシャ神話にチタン神族(巨人である)というのが出てくるがこちらから由来している。世界を支配していた巨人なので、これからいってもチタンという金属は強くて頼りになる補強材であるだろうなとイメージできる。

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