2022年5月24日火曜日

オロシャその3 今週発売のある週刊誌からロシャの国民性をみる

  ユーラシア史(北方民族から見た中国史も含む)そしてそれから発展してロシア史を勉強していると、ユーラシアの大国、中国とロシアの、「国柄」が見えてくる。では学習した結果、その歴史的な国柄とはどんなものかについて(ブログでの)私なりの説明を考えていると、今週発売の『ニューズウィーク 日本語版』にまさにそのとおり、うんうんと納得できるロシアの国民性について、かなりまとめて簡潔に説明がされていた。私が思うことを代弁してくれているようなものである。

 左の雑誌が今週号発売のニューズウィークである。タイトルに「歴史で読み解くロシア超入門」とある。歴史からみてなぜロシア人(現今のロシアの国際的な対応を見ていると西側諸国からは?がつくような国民性)は独特の心性をもっているのかが簡単に読み解けるようになっている。

 図書館でそのタイトルの主題に魅せられて本をとって一瞥したとき、その表紙の絵が何なのかすぐ分かった。16世紀にモスクワ大公国にその身分を置くコサック兵の一団がウラル山脈を越えて、シベリアの(モンゴル系のシビルハン国に戦いを挑み勝利を挙げ、シベリア領有の端緒を開いた戦闘を後の画家がそのエポックメーキングを記念した描いた絵画である。

読む前にそれを見て思ったことだが、もともと現代のロシアの起源はキエフ・ルーシにある。約1100年ほど昔である。それから中心は東に移り、モスクワ公国が有力になり、15~16世紀にはイワン3・4世が現れ、完全にモンゴル帝国のくびきを脱し、逆にユーラシアの東方に向かって膨張していくのである。その打ち立てとなる記念する戦いが上記の絵なのである。16世紀からヨーロッパ諸国は海外に植民地を領有し領土を広げてきた。しかし今はどうだ?ほとんどの植民地は独立し、現在のヨーロッパ諸国は本来の領土の広さになった。

 ところがロシアだけは違う。地続きで植民帝国を広げていったため、それを見る我々はあまり自覚はないが、ロシアは16世紀以来の領土の膨張を求めて広がる「帝国」であった。上記の絵に見えるように火器で武装し軍事的優位により広大な東の領土、シベリアから満州北方、沿海州にかけて植民地をして支配したが、現在になってもその広大な植民地を領有している国なのである。イギリスもフランスも前世紀の中頃まではあった広大な植民地はほぼ手放し、本来の国の形になっている。これは何度かの大戦を経て植民地の民族の独立の動きが強まったためもあるが、ヨーロッパ諸国の内的変化も見逃せない。広範でより深化した民主化、人権尊重、異民族に対する平等意識、などが高まり、20世紀後半になると旧来のような帝国主義時代の植民地領有は本国政治の上からでも妥当とはみなされなくなったことが大きい。しかしロシアはいまだに16~19世紀にかけて他民族の上にのしかかり領有した広大な領土をいまだに引きずって今日に至っているのである。(ソ連も20世紀の最後の10年になって連邦が崩壊し、中央アジアの南方のイスラム教徒の多い地方や、ヨーロッパの影響の大きい西側の自治共和国、コーカサス諸国などの一部は独立したが依然ウラル以東から太平洋までの広大な領土はそのままである

 このように、ロシャはいまだにある面では旧帝国としての「体」(てい)・国体といったほうがいいか、をひこずっているのじゃないかと、まず読む前にこのシベリア制服の表紙の絵を見ながら思った次第である。膨張し一ミリでも領土を獲得することを使命とした帝国主義は第一次世界大戦直前ピークを迎えた。その時点で多くの帝国が存在した。しかし第一次世界大戦でドイツ帝国、オーストラリア帝国が崩壊し解体された。そして第二次世界大戦が終わると大日本帝国も崩壊解体され、最大の帝国であった大英帝国もインド独立とともに帝国としては実質終わり、第二次大戦後もまだ多くの植民地を有したフランスもやがて多くの植民地が独立しフランス本来の大きさになった。

 ロシアはどうか、確かに1917年の二度の革命により帝国はなくなったが、帝国の領土、特にウラル以東のユーラシアはそっくりそのままソビエト連邦に引き継がれている。上記に述べた植民地帝国はそれが解体されると同時に植民地も放棄(多くは独立した)されたのに比べるとロシアは旧帝国の大きな図体をそのまま引き継いでいるのである。ロシア以外の旧帝国諸国はその植民地のほとんどが海外領土(つまり海によって隔てられていた)であったが、ロシアはどこまでも(植民地は)地続きであった。これがよかったのかどうか、地続きであるため植民地領有しているという意識が薄くなる、そのことは21世紀まで広大な旧帝国領を維持するのに有利に働いたかもしれないが、ロシアは多くの民族を含む世界一の広さの領土を統治しなければならない、その場合、植民地という贅肉を落としこじんまりした本来の国の大きさになった英国、フランス、ドイツ、そして日本のように民主的で分権的な統治がロシアにできるか、と問えばこれはどうも不利に働くのじゃないかと思ってしまう。

 そのように考えながらこの本を読むと、やっぱりだ!私の予想したようなロシアの国体、社会、国民性が記述されて説明されている。興味がある方は読んでもらうのが一番良いとして、その概略を知るためにあえて紹介するとすると、その論文の文節の見出しに注目したい。

力でしか治められない悲劇、中世のモンゴルの支配、そして近世になっても長く続く農奴制を基本としたツァーリ(聖俗両権を持つ専制皇帝)制、そしてそれが倒れても続く共産党の一党支配と権力集中、それらが世界一広大な領土を治めるのである。上から力による統治が基本になるのは自然である。それをロシアの悲劇と呼んでいる。

他民族の大帝国と権威主義、上記①を別の側面からみたものでほぼ同じことを言っている。

民主主義は混乱を招くだけ、西ヨーロッパ、少し遅れてドイツも立憲制に基づく議会制度が確立する。ところがロシアはなんと日本より(憲法、議会制度は1889年)遅れて20世紀に入り日露戦争の敗北後ようやく立憲政治・議会開設を行う、日欧に比べるとかなり遅れている。そして始まった立憲政治・議会政治も結局は皇帝の専制的な権力に圧倒されてしまい根付かない。1917年の二月革命で皇帝は廃され民主的な議会制度に基づく政治が定着することを期待されたがレーニンは自らの権力奪取に強い意志を持ち、兵士農民の支持をもとに結局は10月革命でボルシェビキへの権力集中、その実共産党の独裁的政体となる。なんどか民主主義的な制度改革の機会はあったがいずれも失敗し根付かなかった。さらに20世紀末ソ連の崩壊により民主的な制度・政府ができるかと期待したが、結局はプーチンが大衆の圧倒的支持のもと、今の権威主義・専制的な統治になってしまった。結局、「ロシアでは民主主義は根付かない」ということが何度も繰り返され、民主主義は根付かないのではないかと懐疑的な見方がされるようになった。

 そしてなぜそのようになるかもこの論文は分析している。詳しい説明は省いて要点だけを箇条書きにすると

「個」がなければ「全体主義」になる

遅れた経済が「権威主義」を生む

そして世界初の「共産革命」を起こしながら、なぜマルクスの理想としたような社会に進まず、(マルクスが生きていてこれを見れば仰天するような)ゆがんだソビエト連邦が誕生しのか、を考えるうえで次の指摘は重要である。

ロシア革命はインテリによる(上記に示したように大衆の文盲率は高かった)革命運動(ボルシェビキ独裁)だったこと

上からの農業集団化により、共産主義で農奴制に逆戻り、というような皮肉が見られたこと。

 ロシアの国民性をかたちづくる上で重要なのは③、④、⑤であろうと思われる。31年前にソ連が崩壊し、西洋型の議会民主制度を採用したが、経済的社会的に混乱し、結局(選挙を通して)大衆が望んだのは権威主義・専制的なプーチン大統領であった。まさに③の失望があったのである。④も長く続く皇帝専制、共産党独裁、となじんできた大衆は自然と「個」を出さずに全体に自分を順応させるのが習性のようになったのではないか。そして⑤は並んで貧富の格差拡大ということも付け加えなければならない。ロシアは世界最大の領土を持つ国でありながらそのGDPは韓国と同程度であるという。これらの③、④、⑤が相まって今日のロシアの国民性を生んでいるのであろう。

2 件のコメント:

carlos さんのコメント...

やまさん、ちょっとおひさしぶり。
お元気そうですね。

今回のご説明で、ロシアの歴史、国民性のことがよくわかりました。勉強になりました。

テレビやネットでは、ウクライナ危機のことを、「軍事の専門家」が戦況分析するのに力を入れている。なぜか、平和運動の専門家もいるはずなのに、いっこうに登場しない。

戦争を戦争で解決しようとする。
子供も含め人がどんどん死んでいるのに、「即時停戦」しようとしない。その声もない。

結局、大国がからんだベトナム、イラク、アフガニスタンの戦争と同じパターンで、泥沼化し、やがて終戦となっても、平和にもならず豊かな国にもならない。

そんなんだったら、とっとと早めに終わらせばいいのに。みんな「無駄死に」だ。祖国防衛なんかいう指導者は信用でけん。権力者にとっての祖国とは支配体制の「国体」のことだ。国民の命ではないな。

今回のことで、日本も軍備を増強し、エネルギー確保のために原発を再稼働し、さらに核武装せよなんていう、声が出ている。
平和への努力という発想が消されてしまった。
いかんなあ、こんな流れは。

yamasan さんのコメント...

>>カルロスさんへ
 ごきげんよう、コメントありがとうございます。体調はいかがですか、こちらは胃の不調がずっと続いています。通院し薬を飲んでますがあまりよくならないです。これも波があり今日は調子が比較的いいですね。何もかもカラッとなればいいですが。

 停戦~平和~軍縮~武力のない世界、との道程で恒久平和はみんな希求することなのですが、悪意を持った国が他国を侵略したとき、どうするか、やはり被害国は押し返さねばならない、結局は兵器・武力に頼り戦争状態になる、全く悩ましいことです。
 先の大戦で侵略されて大きな被害を出したロシア、中国、二度と被害者にはなるまい、そして自分も加害者になるまいと思ってくれればと思うのですが、今やその二国が侵略の意図を持って膨張している、因果なことですね。ホモサピエンスとして生まれたときから、闘争しなければならない遺伝子を持っているのかなぁと思ったりします。
 石川五右衛門ではないですが、世に犯罪のタネは絶えない、と同じように、世に(小紛争もう含め)戦争のタネは尽きない、というのであれば、我々ができることはいろんな手段でできるだけ戦争が拡大しないよう、被害が出ないよう、限りなく0に近づけるようにすることですね。ところがその手段である国連の世界の警察官5人の中に治安を乱す者がいたとは情けないですね。なにかよい方法を考えねばなりませんね。