2020年8月27日木曜日

炎熱の国・身毒の衣服と仏像

前のブログで十三仏堂のホトケたちを取り上げたが大日如来さんを除いて仏像さんらしい感じはしない。なぜかと考えるとそれは着ている衣装に問題がある。閻魔王をはじめ○○王は古代中国の法服と冠である。これでは仏さんらしくない。それではどのような衣装がホトケ様らしいのか?

 如来さま方はゆったりした無地の一枚布を身にまとっている、菩薩さま方はきらびやかな瓔珞(ネックレス、腕輪など)・宝冠などの装身具で身を飾っている。そして如来、菩薩さまともに生地はかなり薄くて一枚布であるため襞やドレープの曲線が美しい、そして肌を晒している部分が多い。右肩を晒していたり、上半身はほとんど布類をまとっていない場合もある、このようなお姿が我々の持っている仏のイメージであろう。

 そもそも如来さま菩薩さまのお生まれは2000年以上前のインド(印度、身毒ともいう)であるから、その当時のインドの衣装を着たお姿が仏像の姿となるのは当たり前である。インドは炎熱の国である。片肌ぬぎ、上半身裸、薄物の布、というのはこのような風土では当たり前である。現代のインド(特に南インド)でも伝統衣装はそのようなものである。2000年以上の時を経ても如来・菩薩の衣服の伝統は脈々と受け継がれている。こういう炎暑の国では金持ちだろうが身分の高い人だろうかゴテゴテと派手な衣装は暑くてつけられないから、貧富・身分の上下にかかわらず薄着、身の露出が多くなるのは変わらない。差をつけるとしたら、薄物の生地を高級にするとか、首飾りなどの装身具(瓔珞)を派手にたくさん着けてジャラジャラいわせ、キラキラまばゆく人の目を射ることになる。そのため悟りの境地にいる如来は別として菩薩さまがたはド派手な飾りを身に着けている。

 もう一つ如来・菩薩の服地には特色がある。それは一枚布が基本であるということである。生地を裁断せず縫わず、大きな一枚布、あるいはもう一枚加えて二枚を身にまとっているのである。この伝統はインドの伝統衣装、特に聖職者の衣服に受け継がれている。なぜ鋏を入れたり、縫ったりしないのかということについては、一説には布も神聖なものであり、それを切ったりくっつけたりしないのだといわれている。

 では仏像の衣服と現代インドの庶民の服装あるいは伝統衣装の類似についてみていきたいと思う。

 下は南インドの庶民の服装である。腰に布をくるくる(股もくぐらせて)まいただけの半裸体である。別に行水の後たまたま裸体になったのではなく、このような格好で普通に仕事や作業をしている。

 いくらなんでもこんな裸体に近い仏像はないやろと思われるが初期のインドの仏像ではよく似たようなものがある。それが下の仏像である。仏像誕生期に近い中インドのマトゥーラで作られた仏像で、なんと、これは「弥勒菩薩」さま、右手は施無畏で左手には油壷(水瓶かもしれない)を持っているので仏像の定型姿である。上記のインド青年の恰好と同じで布はほとんど股間を隠すのみ(薄物の布であるためモッコリと性器の形までわかるではないか!)、この弥勒様も南インドの青年と同じでフェロモン出しまくりのような魅力的なお姿である。

 次にガンダーラ仏像を見てみよう

 これは釈迦如来である。右手と左手は欠けているため印相はわからないが衣服の様子はよくわかる。下半身を覆う一枚布、そしてもう一枚を左肩にかけ腕に回し垂らしている。そして右肩は露出している。これも現代まで伝わるインドの伝統衣装である。

 このようなインドの伝統衣装はドーティと呼ばれ、今も正統な中インド・南インドの伝統衣装となっている。下が現代の伝統衣装ドーティを着たインド青年。

 上記のガンダーラの釈迦仏像と比べるとよく似ていることがわかる。(上半身にかけている布は首から垂らしているが腕に回して垂らせばガンダーラ仏と変わらない) 現代のドーティはおそらく結婚衣装か何かフォーマルな儀式のときのもので色物かつ金の縁取りがされているが、現代でも聖職者のドーティは釈迦時代とおなじで無地で無染かそれに近いものである。

 このドーティは大きな一枚布(下半身用)であるため、袴状に両足に巻くには特別の着方が必要となる。その図解を下に示す。

 まず一枚布をこのように腰に巻き、残った布(かなり余りも広い)を正面でこのように左右に折り返す。禁欲が求められる聖職者以外はふんどしはつけない、フリチンで布を巻く。


 このようにして袴状に両足に巻きつける。(股をくぐらせ後ろに出すことにより袴状となる)

 そして次のようにして仕上げる。

  後ろから見るとこのようになっている。
 
 これがドーティの正装であるが、上半身にもう一枚布を細目におって肩から垂らす。イラストで示すと最終的にはこのようになる。

 しかし下半身のみの衣服(上半身は裸)でも炎熱の国インドでは立派な正式ドーティである。下半身のみのドーティをやはりイラストで示すとこのようになる。ずいぶんカッコいい。

 ただお釈迦様は南インドではなく、中インドからヒマラヤ山麓あたりを活動されたのであるから冷涼期にはかなり気温が下がる。上半身裸ではその時期ちょっと寒いだろう、だから上のフォーマルなインド青年のドーティのようにもう一枚布を肩から掛けていたたと考えられる。それがガンダーラの釈迦の仏像のお姿である。

 ドーティの正式な着方は上の図解のとおりだがこの通りするのはちょっと厄介だし、また結構広い布が必要となる。そこで略式で腰のまわりを巻いたルンギーと称するもの、あるいはウンと布をけっちったドーティ式巻き方(当然丈は短くなる)が庶民の間では普通で、正式ドーティはフォーマルな席か、聖職者が身に着けるくらいである。

 下は今でも伝統衣装に身を包む南インドのお兄さんがた、ルンギー(腰巻)、半分ドーティ、Tシャツと折衷、など色々である。


 今、日本の如来さま、菩薩さまの仏像のお衣装を見ると、縫い目のない薄物の一枚布を身に着けていらっしゃる。古代からのインドの伝統の衣装であることがわかる。

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