2011年6月15日水曜日

癒しの砂浜

 文豪夏目漱石の小説「草枕」の最初は次のような文で始まる。

 山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
 智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。とかくに人の世は住みにくい。
 住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟(さと)った時、詩が生れて、画(え)が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣(りょうどな)りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。』

 まことに人の世は住みにくい。近頃特に感じる。
 そして住みにくくしている原因は漱石も言っているように「智、情、意地」を持つその人である。その中でも年が寄ると意地がへんに凝り固まって周囲との軋轢を生む。
 若い人はこのような老人を「意固地、頑迷、偏屈」と呼ぶのだろう。

 もっともまだそのような分析を年寄りに加えてくれるのはよいほうで

 「変な爺さん」あるいは「無視」で終わる。

 そんなことがあると人との付き合いも嫌になる。そしてほんとに安らかなとこへ行きたくなるが死にでもしない限り人の世はどこまでもついてくる。

 漱石は、それが嵩じて悟ったとき、詩が生まれ、絵ができるといったが、住みにくさはどんどん嵩じるが、悟りは来ない。したがって詩もできなければ、絵も生まれぬ。

 嫌だといって人との交わりも絶てぬ、逃げていくところもない、悟りも啓けない。四面楚歌で重苦しくて仕方ないが辛抱あるのみか?
 賢人はいろいろ心の苦しみを無くする方法を言ってくれるが、あまり信用していない。今まで60年近く生きてきてさまざまな病気になり苦しんだが、特効薬に当たった例なんかは一度もない。それと同じで心の苦しみに特効薬などなかろうと推察する。

 まあ特効薬はないにしても少しは苦しみを軽減する薬はある。こころも同じことであろう。

 対症療法にすぎぬかもしれぬが最近はこころを空白にしてぼんやり海を眺める方法をとっている。昨日、落ち込み、気力も萎えることがあり、今日は海へ来た。
 潮風に吹かれ、寄せては返す波を見ているとだんだん落ち着いてくる。できるだけ何も考えないようにしようとするがそれはちょっと無理なようだ。でも、爽快で悪くない気分だ。
 深々と深呼吸をすると重苦しさが吐きだされていくようだ。

 「やっぱり来てよかった。」

 なぜか旧懐の念が沸き起こってくる。

 足跡一つない向こうまでつづく砂浜を走ったあの夏。
 はたちのあの夏に帰りたい。
 もう一度燃える夏を抱きしめたい。
 いてもたっても居られぬどうしようもない衝動。帰るはずもないのに。

 でも気分はますますよくなる。
 
 もう一度深呼吸し、堤防のほうへ向かって歩き出す。堤防の上に立ち浜を見ると私の足跡のみが海に向かってつづいている。

 伊勢物語の一節の和歌を思い浮かべて口にする。

 いとどとしく 過ぎゆく方の 恋しきに うらやましくも かへる浪かな

3 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

昨日落ち込んだんですか?
私のブログの性でしたらすみません。
さて、今夜の明け方、皆既月食があります。
AM3時22分から始まり100分以上も続きます。
満月で月食の日は・・・。です。
生きていたらあの世で会いましょう。

yamasan さんのコメント...

 ほう、今日は月食だったんですね。知りませんでした。
 ですが今外へ出ましたが曇って見えない。日が変わると降るんじゃないかな。今回は天文ショーは無理ですね。

 皆既月食は皆既日食と比べて回数が多いから私が生きてる間にはまだ次回見られそうです。

 そうそうアポカリプトでにわかの皆既日食で驚くシーンが出てくるけど、ちょっと?です。マヤの天文学の水準では予言できたのではないかと思っています。メソポタミアの古代文明はサロス周期という日食の周期を発見しています。
 暦を持つ古代文明で日・月食を予言できねば王朝の正当性が問われますからね。案外、食は予言できてるんですよ。

 昔、月食はあることを知るのに用いられました。なんだと思います。それはその場所の経度なのです。
 緯度は北極星の高度を測ることで容易に求められますが、経度は正確な時計が生まれるまで無理、そこで月食の欠け始めの時間によって経度を知ったそうです。しょうもない豆知識です。

 一般の人は知らないけど星食もあります(生殖はよく知ってて実践してるけどね)
 これはいろんなパターンがあります。月に星が隠れるもの、なかには木星のたくさんある衛星が木星本体に隠れるのがあります。
 17世紀にこれを観察して初めて光の速度を測定しました。
 これも食にまつわる豆知識です。

 心配してくださってありがとうございます。落ち込んだのは誰のせいでもありゃしない。みんな私がわるいのよ~、で自家中毒による自業自得です。
 人って長持ちしないようにできているんじゃないですか。何かで読みましたが細胞って自滅・自爆プログラムがあらかじめDNAに組み込まれているそうですよ。
 わたしも60年もたったからそろそろ・・・自家中毒やら、落ち込みを繰り返しつつ自滅ということに。

Unknown さんのコメント...

 やまさん星に詳しかったんですね。すごく勉強になります。
 皆既月食は結局何もなかったようで良かったです。食の最大で何故か睡眠から起きてしまいましたが、影響を受けたのかもしれません。
 「自家中毒」っていう言葉も初めてですが、調べると子供の病気のようですが、やまさん子供?DNAに自爆プログラムがあるのは知っていますが、私の場合は「そんなもの書き換えてやる」タイプなので、気にしていません。DNAなんて所詮プログラム、書かれたものは書き直せばいいし、実際、人は常時書き換えしているとの説もあります。ポジティブにいきましょう。