堤防は土を積み上げてつくられているので、両側の斜面は初夏の草花で覆われている。種類の多いのは禾本科(イネ科)の植物である。丈高く、風になびいているのはカラスムギである。
少し穂が黄色くなってきている。麦の一種だが野生のため食糧にできるわけではない。栽培種の大麦小麦も黄色くなりそろそろ刈取りの季節を迎えるころだ。麦類は野生のカラスムギを含め5~6月上旬に実りを迎えるようだ。
自転車で風を切って障害物のない堤防上の道を疾走する。真東の追い風も力を貸してくれる。空気も澄み、正午過ぎだがすがすがしい。
「麦秋」という言葉が思い浮かんだ。麦の秋。堤防上に広がるカラスムギの実りを見ながら、
「今日のような日のことを言うなかなあ。」
ところどころに色を添える野生の花が咲いている。ひときわ大きく目立つ花は
「鬼アザミ」
バラは茎だけだからまだ可愛げがある。こいつは葉っぱにも針のような「棘」(とげ)がたくさんある。
美しいと思って、不用意に摘もうとでもしたなら、
「血もぶれになるのは確実!」
風に吹かれて生きよと死のと
いらぬお世話さ放っときな
触れりゃ、傷つく
鬼アザミ
蜜を吸うのは蝶のみさ
大橋を渡るあたりから風の抵抗が強くなる。北岸にわたり堤防上を東進すると風はさっきとは違い向かい風になる。
倍以上のエネルギーを使ったのではないだろうか。
ようやく北岸の河口突端に着く。
ここから小松海岸の松林が広がっている。
ここから海岸はカクッと直角に北へ曲がる。松林に沿って堤防上を北上する。と、松林の中に2件のホテルが並んでいる。
「ご休息〇〇千円。」というあれ。
江戸時代だと「出会茶屋」。
「松林の中になんと風流な。松風を聞きながら褥でねんごろに言葉を交わし、しんしんと更けた夜半には波音も枕のそばまで押し寄せるだろう。たまの逢瀬を嘆く女君をしっかり抱きしめ、涙を見せぬよううち臥したため乱れた黒髪を撫でてやりつつ、窓の外をみると・・・」
「月など出ていたら最高じゃな。」
「二人はまるで源氏物語の光君と明石の上じゃ。」
「後朝の別れに和歌でもやり取りしたら最高じゃなぁ」
なんどと妄想をたくましくしていたら、昼日中から、車で乗り付け、中に入って行った。
これじゃあ源氏物語の「須磨・明石の巻」にならんだろ。明るいうちから、桃色遊戯か!
しばらく松林に沿っていくと広い砂浜海岸が見えてきた。
平日だけどマリンスポーツを楽しんでいる。サーフヨットや・・・
これはなんというのでしょう。大凧にサーフボードを引っ張らせているのもあった。
海浜には里山や野原とは形の違った植物が自生している。
次の花が咲いてるのはなんという植物か正式な名前は知らないが、たぶんセリ科でこの仲間には、北海道でよく見られる「シシウド」、「エゾニューの花」がある。
小さな松も海浜にたくさん生えている。「小松海岸」の由来だろうか。
行くときは気づかなかったが河口近くの辺鄙なところに温泉があった。繁盛してるみたい。
「そりゃあ、みんな、車持ってるからなあ。温泉だろが、連れ込みホテルだろうが行きほうだいじゃ」
わたしゃ、どこまでも自転車。キーコキーコ音をさせながら、徳島駅まで漕ぐ。
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