2012年2月7日火曜日

マトリックスへ回帰


 ギリシア神話にこのような話がある。(実はこれを読んだのは19歳頃で、哲学入門の本にあった話であった。その本を紛失した後、もう一度詳しく読みたくなって図書館や本屋どこを探しても行き当たらなかった)

  名前は忘れたがギリシャでもっとも有能といわれるある人が、絶対的な幸せを求め世界を遍歴の末、この世で最も賢いといわれる半人半鳥(これも名前は忘れたが顔は人間、その他はフクロウのような鳥)の止まり木にたどり着いた。
 その人はそのフクロウに似た賢明の主に尋ねた。

 「賢明の王よ、どうか教えて欲しい。もっとも幸せになるには人はどうすればよいのですか。」

 その賢明の王は悲しい顔をして首を振るだけで答えてはくれなかった。
 なおも食い下がり、どうか教えて欲しいと辞を低くして何度も頼んだ。

 その賢明の王はついに口を開いた。

 「ああ、不幸な人間よ、もっとも幸せなこと、それは生まれてこないこと、なのだよ、お前が生まれたこと、それがもっとも不幸なことであり、生まれないことが一番しあわせなのだ。」

 すべてをご破算にしてしまう恐ろしい真実、そんな真実などあり得ようはずはない、と思いながらもずっとこの言葉は脳裏に決して落ちないシミのように残っています。

 この寓話はポピュラーなものではない。いやそれどころか、今、ネットで探しても見つからないほどのマイナーな話である。
 そりゃそうだろう。こんなことが「教訓」とされた日にゃあ、自殺者志願者の背中を押し、シニカルな若者にお墨付きを与えるようなものである。

 人はたとえ死期が迫っていても常に光を求め、前向きに生きていかなければならないというのが人の生き方の指針となっている。

 しかし建前ではそうであっても、人には「闇や無」に対する回帰心、それへ向かおうとする暗い情念も存在することは否定できない。
 光へ向かおうと欲するこころ、闇へと向かおうと欲するこころ、前者のみが人の本質であり、後者は魔に魅入られたただの迷いに過ぎないのか。そうではあるまい。

 『闇、無』といったがそれは決して「空虚」なものではない。絶対真空の宇宙空間が実はディラックの海と呼ばれ、一見何もない「無」から素粒子が生まれるように、「闇、無」はあらゆるものをそこから産みだす「闇、無の海」であり、「母体」(マトリックス)である。

 先日からあるTV放映された連続ドラマのDVDを借りてきて見ているが、面白くてはまってしまい6枚全シリーズを見てしまった。
 かなり変わったドラマで、主人公は中年(37歳と言っていた、佐藤二朗という役者が主演)の引き籠が家から3キロ以内でいろいろな体験をする話である。引き籠りといったが、見たところ重度ではないある種の「自閉症」である。

 これを見ながらこの主人公のような「引き籠り」「自閉症」に親近感を覚え、(というのも自分も中年引き籠りから老年引き籠りに移行したので)、このような生き方が人本来の生き方ではないのだろうか、というような危ない考えにとりつかれました。

 私も含めこういう人たちって『マトリックス』の回帰傾向が強い人と思います。『マトリックス』matrix英語にはいろんな広義な意味があるけれど、「すべての基盤」、「母体」、「子宮(解剖学的に)」と解釈してください。
 母体の中で丸くなり誰からも邪魔されず心地よく羊水の中に浮かび、何の夢かもはや記憶にはないけど夢見つつまどろんでいた。そこは暖かいところではあるけれど「闇」であり、誕生した以後の自分から見ると「無」に等しいものであった。

 頼まれもしないのにその居心地の良い母体から無理やり外界へ引き出された。それを誕生という。しかし、外界のそこには他者がおり、自他を峻別し、その間を苦労して調整しながらいきていかねばならない。次々に様々な試練と称する苦難が降りかかってくる。そして何より生まれた以上は死なねばならぬ。

 「いやだ、いやだ、生れ落ちるのは嫌だ。」

 そういって生まれたばかりの赤ん坊はみんな同じ音調の声で泣くという。
 しかし、もはや帰ることはできず、納得できないながらも、泣いてばかりもいられず、あきらめて外界を苦しみながら歩いていくことになる。

 だが大きくなってもマトリックス回帰心を持ち続けている人々は他者から「引き籠り」だの「自閉」だののレッテルを貼られる。
 日本神話のアポロンと呼ばれる天照大神に対し、ディオニソス的な面を持つのが素戔嗚(スサノオ)であるが、彼は母の住む「根のかたす国」(黄泉の国)に行きたいと、泣き、それが聞き入れられぬことからさんざん破壊をつくす。これなどは原初のマトリックス回帰を見るようである。

 引き籠り、自閉は一般に人々から厭われる。次のように思われている。

 「他者とともに共存して生きていけなくてどうするか!」

 しかし、生まれる前のあの暖かい、未分化の基盤・創造の原初の海・マトリックスをこいねがうものは、他者など受け入れたくない。胎児のように丸くなっていられた居心地の良さを夢見ているのである。
 そう考えると引き籠り、自閉は決して異常行動ではない。

 ギリシアの半鳥半人の賢者は次のように言った。

 「ああ、不幸な人間よ、もっとも幸せなこと、それは生まれてこないこと、なのだよ、お前が生まれたこと、それがもっとも不幸なことであり、生まれないことが一番しあわせなのだ。」

 もしかしたらマトリックス回帰はこれをよくわかっている人の本質的な行動なのかもしれない。

4 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

マトリックスって、数学の行列の事だと思っていましたが、いろんな意味があるんですね。
 羊水感覚は確かに気持ちがいいと思いますが、風呂や水泳、スノボ、スキー、スケート、瞑想、起き抜けの布団の中等いろいろ疑似体験は出来ると思います。私が最近はまっているのは、起き抜けの布団の中でくねくねするです。電位療法器のローズテクニーというので20年ほど前から寝ているのですが、朝起きて疲れが取れ、程よく温まった布団の中で、いろんなストレッチをすると結構気持ちいいです。
 フクロウの賢者さん、スカッとしたこと言いますね。当たっているので反論できません。生きている間の幸福なんて追及すればきりがありませんし、「最も幸福になるには?」などと言われれば、答えに困りますよね。私なら、「日々、生きていることに感謝すればいい」とか言いますが、、こんなこと言ってわかる人なら、こんな愚問はしないでしょうね。やっぱり一番効くカウンターパンチは、「生まれないことです。」ですかね、でも「死になさい。」とは言ってない所がミソですよね。ヽ(^。^)/

yamasan さんのコメント...

いろいろな健康法をやっていますね。その特別ベッド、電磁波や放射能が出るんですか。前、訓練中にパコさんが何かヘッドギアのような鳥かごを被ってましたがなんか関係あるのかな。

 ジョージ君もトシちゃんも健康法は様々やってるみたいだけどしんさまのが一番こっている気がします。
 腰痛、頭痛、あるいは若さを保つ、目的によっていろいろな違うやり方があるんですね。
 みんな一堂に会する機会があればそれぞれプレゼンをしてもらいたいですね。
 一番効くプレゼンは
 「何も言いません、僕を見てください」
 と言えれば一番です。
 でも深夜にBS民放で延々流れる健康法グッズコマーシャルは、実践者、プレゼン者はみんな萎びた往年のキャラばかり、あれじゃあねぇ~(^_^;)

 一番何もやってないのが私です。うろうろ歩くばかりで。

てるゆき さんのコメント...

ほんとに疲労感のない健康法があれば教えてほしいです。

yamasan さんのコメント...

>>てるさん

風邪が治ったらまたジムはじめてください。前も言ったように健康づくりをして病気にならないのが一番いいですからね。