2011年11月5日土曜日

前のつづき Odor

 Odorという英語はsmellと同じ「匂い」という意味である。smellより馴染み薄いかもしれないが、科学的な匂い~正体不明の匂いまで幅広く使われる。ラテン語が語源であるためこれからの派生語もいくつかある。(土着の英語はラテン語やギリシャ語と比べ、あまり造語能力は優れていない。これは大和言葉を連ねて造語できないのとよく似ている。しかし、外来の漢字は2つ以上重ねると造語できる。)

 たとえば「分離する」という意味のある接頭語、de-と、この「匂い」の、odor、名詞・形容詞を作る、 -ant、を結びつけると
  deodorant、匂いを分離(引きはがす)という意味が出てきて「消臭・脱臭剤」になる。デオドラントの事である。

 さて、昨日、自転車で徳島城公園を疾走していた。(いつもはゆっくりだが)するとある場所に差し掛かるとある強烈な匂いが匂ってきたのである。

 「おおこれは、ウンコの匂いではないか!」

 ウンコの匂いは悪臭である。(こんな悪臭は英語では普通stinkを使う。)しかしこんなところに幅広く匂っているのはなぜだろう?犬の集団の溜め糞か?それともバキューム車が作業をしているのか?
 普通の人ならより自転車の速度を速めその場から立ち去るでしょうが、ウンコから発散するにしては違和感があり、それが気になって私は自転車をとめました。
 
 「クンクン、キュ~ィン、ここ掘れ、ワンワン」

 とは言いませんでしたが、ポチ状態になってそこらあたりの地面を嗅ぎまわりました。

 そしてそのウンコの匂いの元を見極めました。ウンコではありません。
 銀杏の実が熟して(銀杏は♂♀があり当然♀の木!)落ちていて、それがつぶれて強烈な匂いを発散しているのです。熟して落ちた銀杏の実はウンコとよく似た匂いなのです。

 街路樹の銀杏は美しく黄葉し、その木の姿もまっすぐで見栄えがいいからあちこちに植えられていますが、実の悪臭のためか、植えられるのはほとんど♂の木です。♀の木は神社などに残っているくらいでしょうが、ここ徳島城公園の銀杏は♀の木だったのです。

 私はあえてstink悪臭と発想せず、この銀杏の実の匂いには化学的・中性的なodorを発想しました。銀杏の実とわかったら同じ匂いといっても踏んずけてもウンコほど嫌にはならないでしょう。
 第一、これから採った銀杏の実は実においしく、もちろん水に浸しておいて洗うのですが、この実を火で炒って食べるとこんなうまいものはありません。銀杏とわかればウンコ臭い実であったとしても、気にしません。わかれば匂いはstinkからodorにですね。

 実は悪臭はその濃度、あるいは人の主観によって悪臭にはならないどころか、芳香にさえなるのです。

 「え~、そんな、あほな!」

 と思われるかもしれませんが、化学をちょっとやっているものにとっては常識なのです。
 ウンコの悪臭の化学的成分はインドール、スカトールという物質なんですが、これ、濃度が薄いと芳香になるのです。嘘と思うなら下記をご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB

 どうです納得いただいたでしょうか。

 主観的に考えても糞尿を始め体内からの分泌物は、一概に人が嫌う悪臭とは言えない微妙な匂いなのです。
 甘い魅力的な香りで人を魅了する「ムスク」(麝香)はジャコウジカという動物の分泌物(腺)なのですが、獲れた時のそれはアンモニア臭のある不快なものなのです。
 麝香については下記
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%9D%E9%A6%99

 元々われらケモノ類は、異性の腋臭(ワキガ)、あるいはマン臭(マンガ)、さらには適度な(まあ、パンツのシミ程度の量と考えましょう)糞尿の匂い(糞尿の成分インドール、スカトールの薄いのは芳香を持っていることを思い出してください)に対してもそれらを感知し発情する本能の仕組みを持っているのです。
 人間の場合は理性とやらがあってその発露に関しては率直ではなく、屈折し折れ曲がり、あっちこっち歪みまくってよくわからなくなってますが、ケモノと同じだぁ、と思い当たるふしもあります。

 鼻が曲がるほどの悪臭は別として、いとしい恋しい異性であれば、仄かな体臭、体液の匂いはいわずもがな、微妙な位置・雰囲気の場所に、微かに存在する糞尿の匂いさえも好ましいと感じないわけではないでしょう。(って、二重否定語を使わなければならないところがこんな話の説得の難しいところ!全然思い当たる節のない人はすでにケモノ類から脱して「新人類」に進化してます。)

 その点、古典に登場する人物はこんな匂いに関しても率直です。
 源氏物語に「薫」(かおる)という美男子が出てきます。光源氏の息子となっているんですが(ホントは?)、生まれつき女性を魅了し惹きつける体臭を持って生まれてきているのです。だから「薫」と名づけられました。これなどは体臭そのものよりその薫の美男子の雰囲気と体臭が一体となって好ましいイメージの匂いを印象付けているものだと思います。
 また美女の大便をどうしても手に入れたい変わった平安貴族も登場します。今だと糞尿マニアですかね。

 まあそれはともかく、大便の成分のインドール、スカトールの薄い溶液は芳香性があるという事実はこれらのことを(異性の体臭糞尿成分などが我々に対し好ましい感覚器興奮をもたらす)物語っていると思うのですが、どうでしょうか。

 花の香油で作られた香水にも微量のこれらの動物性の香りを入れることによって格段の芳香を発するといいます。
 異性の体臭や糞尿の匂いに発情するという古い古い本能が人の脳の基幹部分に残っていてそれが反応してえもいわれぬ官能の匂いを感じさせるのかもしれませんね。

 そういえばフランス映画だったか?題は忘れましたがブルボン朝のフランスの天才的な香水師の話がありましたが、試行錯誤の上、万人を魅了する究極の香水を作ります。実はその決め手の微量の香水成分は動物性も動物性!なんと、美女の屍体からとれる香油だったのです。
 ちょっとホラーじみてきましたが、花の香油に微量の動物質の香りを加えてパーフェクト・・・
 おっと、それで題名思い出したわ!パフュームじゃ。

 ネットで入れたらヒットした。興味ある方はDVDもあるみたいですから見てください。
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD10182/story.html

4 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

 う~~、「悪臭も微量では芳香」ですか、「毒も微量では薬」と同じ原理ですね。体臭は結構興味があります。職場でもすごい体臭の人がいるのですが、一人は一般に言う腋臭というやつですかね。腐った油のような匂いですね。もう一人は結構芳香に近い、ムスクのような匂いの人がいます。また、匂いは匂う人のほうの感性とか感覚が左右すると思います。現に腋臭の人同士は結婚していました。においが合う合わないはパートナーを見つけるうえで、重要なファクターになっているように思います。やまさんのおっしゃる通り、好きになった人の汗とか体臭とかは気にならないのは同感しますし、あばたも笑窪的なことかもしれません。ぺットを飼っている人も同じでしょうね。私もペットを飼えば、ペットショップの親父を許せるのでしょうかね。
 パフュームのDVDは、2~3持っています。ただ、口パクで踊っているだけですが、最近は韓国勢に負けてくすんでいます。(^.^)

Unknown さんのコメント...

 目とか耳や味、触覚の能力を失った時のために、嗅覚を鍛えておこうと思いました。たいへん参考になりました。(^.^)

yamasan さんのコメント...

 年齢とともにあらゆる感覚器の機能が落ちてきます。嫌になりますね。それに伴い官能の喜びも無くなるんでしょうか。
 官能の喜びは消えるのにそれを求めても得られない「疼き(うずき)」のみが身に残るのはつらいですね。

 加齢とともに研ぎ澄まされる六感みたいなものないかしらね。

yamasan さんのコメント...

 >>しんさま
 香りに対しては造詣が深いように思われますが、何かそういう研究、仕事をされていたんでしょうか。

 最近は安物だけど強烈な人工の芳香剤の香りがあふれていると思いませんか?これのせいで微妙な香りが嗅げなくなるのではと畏れます。
 電車の中で高校生がムスク系の匂いを強い匂いを発散させてます。
 「ちょっと早いんでないかい!」
 と思うのは私だけでしょうかね。

 ちなみにパヒュームは「パヒューム・ある殺人者」という、かなり興味深い映画です。