ばぁやん二人の会話が(だいたいこの歳になると耳が遠くなる、ワイもそうだ、だからその影響でか会話は大音量になる場合が多い)聞くともなしに聞こえてきた。
おバァ甲「もう、こうえんのうめがさいとんじょぉ」
おバァ乙「ほ~でか、エエ匂いがしたでか?」
おバァ甲「うめってどんなによいがしよんえぇ~?」
おバァ乙「なんちゅうたらええんかいなぁ~、うぅぅ・・、まぁかすかなによいじゃわなぁ」
ばぁやんの会話の中で「梅はどんな香りか?」と聞いた。返しはあいまいに、かすかな香りじゃ、といったが、香りの説明はけっこう難しい。香りはストレートに嗅覚に作用して快、不快をもたらす。花の匂いはおおむね「快」をもたらすことが多い。しかし具体的な花をあげてそれがどんな匂いか説明せよ、となると頭を抱えてしまう。誰もが知っている匂いに近いなら、それにたとえてそれとよく似た匂いだといえることがある。例えば「クチナシ」の花、強烈な香りで、よく似た香りが、「バナナの熟したかおり」に近い。バナナの熟した香りは誰でも思い浮かぶので、それとよく似た匂いである、と説明に用いることができる。
しかし梅の香にそれは使えるだろうか。私が初めて梅の香を嗅いだ時もよく似た匂いの香りを思い出した。それは手の荒れを防ぐクリームの香りで「梅の香ワセリン」、自身ではよく似た香りだと認識できるが、そんな例は特殊な人のみにわかって大勢に人には一般化できない。したがって香りの説明にはならない。第一、梅の香を説明するのに、梅の香ワセリンとはトートロジイ(同意語)で説明にはなっていない。
お利巧さんなAIに答えてもらうと次のよ~うな説明を受けた。
『梅の花の香りをひと言で表すとジャスミンに似た甘い香りです。 フローラル系の華やかで甘い香りがほんのりと感じられます。 梅の花の香りを表現する言葉の1つに「馥郁(ふくいく)たる梅の香り」があります。 馥郁(ふくいく)とはより良い香りが漂っている様子を表します』
う~ん、ジャスミンなぁ、たしかに大勢の人が嗅いだことがあり、一般化できるかもしれないが、一般化しすぎて、香水からクリームなどの化粧品ばかりでなく、洗剤、はては脱臭消臭剤、便所の芳香剤までありすぎて、わからない、オリジナルの「ジャスミンの花」の匂いが一番近いのだろうけど、これを体験し、すぐに思い浮かべる人など少数であろう。
お利巧さんなAIの説明だが、このように分析した結果、これこれの花に似た匂いだ、といわれてもどうも納得しがたい。無理に似たものにたとえるのではなく、他の説明のしかたが適当なように思われる。上のおバァの説明にも「かすかな(よい)香り」といいうのがあったが。ふつうはこれで納得して話は進む。もっと加えるなら「上品でかすかな香り」といえばもっといいかもしれない。上品でかすかな香りという系統の説明でいけば、高級な香木(お香)の移り香のような・・というのもいいかもしれない。しかしこれだと、先ほどのよく知らない香りのたとえで、ダメなのではないかといわれそうだが、上品でかすかな香り、というのも、香木の移り香のような、というのも具体的なモノのたとえでなく、万人が持つ感性的な印象によっているものである。
かすかに漂う梅の香は、古人にも愛され、歌や俳句にも読まれた。
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ 昔 の 香 に にほ ひける 紀貫之
しら梅に明る夜ばかりとなりにけり 蕪村
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