一昨日(21日)、久しぶりに映画館へ足を運んだ。東新町にある小じんまりした映画館である。映画の題は『アプレンティス・(副題)ドナルドトランプの創り方』(原題・Apprentice)、感想を書く前に見終わった評価を述べると私の採点は「上」である(上上が最高、そして上、中と続き、下、下下の五段階で二番目)。去年見た、やはり伝記的映画のジャンルに入る、原爆の父と言われている主人公の映画『オペンハイマ』と同程度と評価した。緻密さ(主人公についての資料の扱い、あるいは客観的事実)については「オペンハイマ」の方が上のような気がするが、今まさに進んでいる同時性、世界を飲みこもうとせんばかりの彼の危うさ、その強大な権力を持つアメリカ現職大統領の内心を形作ったものが、どこから来たのかを描いた作品としてのインパクトは「オペンハイマ」を凌ぐ。
副題を見れば、ポスターを見ずとも誰を描いたものかはすぐわかる。しかしまぁ、ドナルドトランプの創り方、とは・・現職アメリカ大統領に対し、よくもこんな題をつけたものだと恐れ入る(もっとも副題は日本の配給会社が付け足したものだあろうが)、漏れ聞くところによると、トランプはん本人はアメリカでの封切りに反対であったとされるが、さすがに言論封殺はできない。そう聞くとこれはトランプはんをディスる(おちょくったり、批判したり、ネガティブなイメージで描く)ものかとも思うが、そうではない。見た人によってさまざまに解釈はわかれるだろうし、当然、見終わっての彼に対する好悪の結果も一様ではない。
それにしても、副題に「トランプの創り方」ってあるが、ふつう社会的に成功する「人」に対し、その上昇の伝記的過程をこのように表現はしない。このような〇〇の創り方、と聞いて思い浮かべるイメージは、中世の錬金術師が、いろいろ怪しげな薬品を混ぜ、不思議な処方を加え、安物の金属から黄金を作りだす、その「作り方」、とか、あるいは同じ錬金術師が、今度はいろいろな薬草を混ぜ処方し、最強の毒薬、それも飲んでから数か月もたってある日急に頓死する毒薬、だから絶対犯行はわからないその毒薬の「作り方」とかを思い浮かべる。
そのイメージで行くと錬金術師が作るのは、誰もが求め喜ぶ「黄金」、あるいは正反対のまったく悪魔的な「毒薬」となる。その作り方の結果出てくるのはどちらか?題にも映画にもそれがどちらとも明示されない。それはこの映画みるひと個人が決めるものであろう。
錬金術師のイメージでとらえると、副題に対する主題である「アプレンティス」という言葉が鮮明に生きてくる。左上の写真は中世の錬金術師の工房である。いろいろな人が働いている。中世(日本の江戸期の職人でもそうだが)の工房では親方がいて弟子、見習い(子ども)が親方のそばで雑用をこなし、その技術を学び一人前の職人となるのである。写真の長老格で椅子に座っているのが親方で、他は弟子、徒弟、見習い、と年期によって分かれる人々がいて、指示によって働いている。錬金術師の親方はマスター(master)といい、弟子、徒弟、見習いはアプレンティス(apprentice)というのである。
つまり、黄金かそれとも毒薬かわからないが、それを作る職人となるため秘術をもった親方・マスターのそばについて最初は見様見真似、のちに一番弟子に昇格すれば、秘伝伝授もされ、その弟子・アプレンティスは一人前の錬金術師・親方(中世ではほとんど魔術師と同一視された)になるのである。その錬金術師の卵がアプレンティスというわけである。なるほど主題も副題もよく考えられたネーミングにしたものだと思う。
映画ではその親方・マスター役が若きトランプの指南役となる弁護士ロイ・コンである。きわめて有能ではあるが恐ろしいほどの悪徳弁護士としてキャラ設定されている。当然、弟子・アプレンティスとなるのがトランプである。私の解釈風に錬金術師にたとえるなら、トランプは親方の指導の下で見習いから徒弟、そして一番弟子を経て最後は一人前の親方・錬金術師になるのである。そして我々が一番知りたいのは、トランプが一人前の錬金術師になったとき、生み出されるのが「黄金」か、はたまた恐ろしいがきわめて有能な「毒薬」か(有能というのは使う人には尻尾をつかませない、つまり使用者には絶対危害を及ぼさない、例えば飲んでもすぐには効かない、かなり時がたったある日、急に効いて死に至らしめるような)。
お師匠さん以上に弟子が有能な師匠・親方になるたとえに『青は藍より出でて藍より青し』ということわざがある。これは生み出されるものが善であっても悪であっても通じる、師匠の弁護士ロイ・コンは悪徳弁護士であるから、最後には師匠をしのぐ弟子となったトランプも悪徳の実業家そして政治家となるのであろうか。
師匠をしのぎすぎて最後には師匠も蹴散らしてしまうトランプ、はたしてこの偉大な錬金術師もしかして魔術師は、これからどんなものを生み出すのか。と、実はその時点で映画は終わるのである。もちろん政治家になる前である。つくるのは黄金か毒薬か。映画の中ではまだわからないうちに終わる。しかし上に示したポスターのトランプが金でできているのもなにか象徴的で面白い、ただしそれは金むく(純金)か金メッキかはわからない。
今のトランプ自身の言によれば、彼は「偉大なアメリカをつくる」というのと同じくらい「アメリカの黄金時代とつくる」と言っている、ほぼ同じ意味として用いられている。ということは彼は黄金を作り出す錬金術師なのか。私はちょっと肯定する気にはなれない。じゃぁ、彼は毒薬を生み出す錬金術師(魔術師の方があっているが)か、というとそれも違うと思う。
「黄金時代」はゴールデン・エイジ(Golden Age)ともいわれ世界史の上で国家が最隆盛に達した時代をさして言われる言葉である(例として16世紀エリザベス1世の御代、ゴールデンエイジと言われる)。トランプさんはそのことを言いたいのだろうが、アメリカにはもう一つの黄金の名をつけた悪名高い時代があった。それが「金ぴか時代」(Gilded Age)である、Gildedは金メッキするという意味となる。南北戦争の終了後から1920年代大恐慌の前までのあいだ、時々の、表面上は華やかな時代に用いられた言葉である。「金ぴか」とはすなわち金メッキのことである。内実がお粗末なのに表面だけ金メッキしてごまかしたいわば「まがい物」の一種である。金メッキを施しているので外見は金むくである、つまり虚勢をはり威勢良く見せ、あたかも黄金時代が招来したようにみせかけ、また人々もそれに錯覚し浮かれる、そんな時代が「金ぴか時代」である。
そんな金ぴか時代になる可能性はある。その時代は見せかけで世が回っているため様々な矛盾が蓄積し、黄金どころか蓄積した山は腐敗し「毒素」をも生み出しかねず、それが社会を痛め、悪くすると瀕死の重傷になるかもしれない。歴史に鑑みるとそれが今後の危惧となる。
映画は先にも言ったように、トランプが政治家になる可能性を秘め、なおも前進するところで「中断する」(1980年代半ば)、英語で言うとペンディング(pending)である。未決定という意味があり、pendは吊るすが原義で、吊るして宙ぶらりんな状態で終わる。そして約40年後が現在である。さてこれからの展開はいかになるだろう。映画を見終わり、あとは現実に帰り、この世の行く末をみろってか。
映画の内容についてはこれから見る人のために言わないでおく。映画ですごいなとおもったところは、トランプ役の俳優である。若い時から中年まで演じているが、見目形、しぐさまで何から何までトランプはんとそっくりといっていいほど似ていて感心した。お楽しみのセックスシーンもあり下ネタで笑わせてくれる。一つは、トランプが立ったままでズボンを下ろし下半身剥き出しで、女性をその前にひざまずかせ、尺八をさせるシーンである。これを見た時「ありゃりゃんりゃ、こりゃ、クリントン大統領が女秘書モニカはんと不倫でフェラセクスしたときと同じじゃ」と思わず笑ってしまった。そのパロディなのだろう。もう一つは、トランプはんが師匠である弁護士ロイコーンに会うためドアをパッと開けると、なんと師匠は男を引き込んで組み伏せ、その男の尻に肛交(アナルセクス)をしかけているまっ際中、動揺し、ノーマルセクス派のトランプはんはドギマギして慌てて去っていくシーンにも笑わせられる。
まぁ、今何かと話題のトランプはんの映画ですから、興味があれば見て楽しんでください。
0 件のコメント:
コメントを投稿