早朝、昭和45年放送の「新日本紀行」が再放送されていたがそれが昭和45年度の阿波踊りであった。懐かしく見ていると記憶の底にしまい込まれていた、当時の私の周りの出来事、身近な風俗などがよみがえってきた。
徳島の阿波踊りの紀行番組でありながら、なぜか画面に映ったのはヘルメットをかぶり、そして赤旗を持ち、スクラムを組みジグザグに行進する学生たちであった。そして口々に
「安保反対!安保反対!」
と叫んでいる。
そうだ。この年は70年安保(二次改定)の時期だったのだ。そして前年、前前年くらいから学生の政治活動が盛んになり、東大なんか入試もできなかった。そして大学の占拠なども起きたりしていた。学生たちにとってはこの時期、政治活動、それもかなり過激な運動が盛り上がった時でもあった。
私は地元大学の一年生、奥手なのか(?)まったく政治には興味がなくいわゆるノンポリ学生であった。学生の政治サークルに入っている先輩から勧誘を受けたことがあった。最初に聞かれたのは
「君、どの政治主義、あるいは政党を支持しているの?」
であった。私はそんなのないから、別にぃ~、と答えたが、現状の社会にお前は満足しているのか?ときかれ、先輩のお説教みたいになったことを覚えている。
学生たちの力で本当に社会変革を成し遂げるのだと信じていた若者がいた懐かしい時代でもある。
手前阿波踊りの連の後ろに赤旗が見えるが、それが安保反対の学生デモである。
番組はそんな世相を流しながら、次に徳島の電電公社に勤める真面目そうな中年紳士を写す。コツコツとデスクワークをしているのを説明しながら、ところが阿波踊りの期間になると、といいつつ場面が切り替わると、このように変身して踊りだす。
その場面をみて、ようやく気付いた。
「あ!写楽おじさんだ!」
そうか電電公社の社員さんだったんじゃ、それにしても仕事の顔からは絶対想像できなんだわ。
見物人の風俗衣装も見ものだった。県外客の若い女性は非常に奇妙な模様の柄の服を着ている。それを見ながら
「あ!これ、たしか、サイケデェリック模様っちゅうんじゃわ」
もう今となってはこんな模様、はやらんだろう、服装歴史博物館にでもいかにゃぁみれんわな。
学生連の格好も面白かった。男踊りの浴衣は今と何ら変わりがないが、その頭、伸び放題のボッサボッサあたま。そういえばこのころ、ワイもこんな頭しとったわ、と懐かしく思い出した。
昭和45年の「新日本紀行」の放映から数えると今年でちょうど50年、半世紀である。長いように思えても、自身、振り返ってみると、瞬く間に過ぎていったという感もある。今年は例のコロナで中止である。50年来、全日(4日間)なくなるのは初めてである。半世紀のスパンで考えてもたった一回のまれな出来事である。(百年前のモラエス時代は皇室の不幸、戦争などで中止はあった)。本来ならあと数日でボニ踊りが始まるが今年はできないから、せめて年寄りには思い出に浸れるように、若い衆にはこんな時代もあったんだと知らせるためにNHKはんも気を利かせて半世紀前の「新日本紀行」を再放映したのだろう。この時の乳児でももう今、50歳を越える。人生五十年と言われた時代より寿命は延びたが、この紀行番組に映っている人の半数以上はすでにこの世にはいないだろうな、と思いつつ、今年もまた招魂の季節を迎える。
去年令和元年、わが町の阿波踊りを下に貼っておく。この年は雨でたった一日しか阿波踊りは開けなかったが、令和二年は全く中止とは、この時は想像だにしなかった。動画のバックとして新日本紀行のテーマ音楽をくっつけておいた。
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