数日前、図書館で、新刊本で何か面白いのはないか、と新刊本コーナーを探していると左の本が目に入った。半世紀にわたる逃亡犯・桐島聡を描いたノンフィクション小説である。彼については新聞テレビ以上の詳細を知りたいと思っていたのでさっそく借りて読んだ。
主人公は正確に言うと49年間延々と身を隠し続け、70歳の誕生日を迎えた直後、末期がんで街中で倒れているところを緊急搬送され、実はと、病院で本人が警察に照会するように実名を明かし、警察をちょっとしたパニックにおとしめ、マスコミも驚きをもってそのニュースを報じたのである。しかしそれからわずか三日後に息を引き取った男の話である。
私もそのニュースを聞いた時、驚いたものだ。そしてなぜかまったく知らぬ人のような気がしなかった。考えると、駅、フェリーの港、全国津々浦々の交通のターミナル所によく貼ってある「全国指名手配のポスター」にその顔はあった。他の目立たぬ手配者違い、彼は見ることを意識していなくても目に入ってきた。長髪、黒縁の眼鏡、ギョロっとした特徴のある目、それにポスターの中のいかにも手配犯という面相ではなく彼だけは少し横を向いて微笑んでいる。他に並んでいる手配犯の顔に比べればブッちぎりの印象深い顔である。言い方は変だが、旅行好きの私が通過したターミナル所で40年間、それは町中にあるボンカレーや仁丹の宣伝看板の顔のように、風景の1つとして、見慣れ親しんできた顔だったのである。
驚きのあと、数日を経ずして彼の死の報道の接したときは深い感慨を覚えたものである。その時の感慨はその死のニュースに接したときにブログにアップしているのでよかったらご覧ください。(桃山日記ブログ『逃亡者』、ここクリック)⇒このブログを見るとちょうど一年前やなぁ、ブログの最後に「合掌」とささやかながら冥福を祈ったが、再度の今日のブログは彼の一周忌に書かれたことになる。これも何かの因縁か。
本の副題に「哀しき49年の逃亡生活」という副題がある。逃亡犯で必死に身を隠し、基本的な生活(衣食住)にも困るような困窮を我慢し、あちらこちらと逃げ回っていたなら、確かに「哀しき」というタイトルもつこうが、本を読んで彼の逃亡生活を知ると、どうもそのような感想は湧いてこない。数年は確かに必死に身を隠し・・というようなこともあったが、49年の逃亡生活のうち40年はなんと同じ建設会社でずっと働いているのである。そしてボロの会社の社員寮に住み暮らしていたのである。左がその彼が暮らした社宅である。そこでつつましく40年すごした。
ぼろぼろの住居にいささか「哀れさ」を感じぬでもないが、独居老人の私の家も変わらぬものである。その上に私の家内部ははっきり言ってゴミ屋敷である。ニュースでは家の外観しかわからないが本によればちゃんと片付いていたそうであるから、もしかすると悲惨さは私の方が上かもわからない。そこで仕事を持ち、40年間は罪も侵さず平穏に過ごしたのである。70歳を過ぎた貧な独居老人なら、晩年の彼の生活となんらかわらぬか、それより悲惨な人もたくさんいるであろう。
そんなことからサブタイトルの「哀しき49年の逃亡生活」というような見方は75歳独居ゴミ屋敷ジジイの私にはできない。それに人間70歳を過ぎれば、タイトルの、「哀しき」はないとしても「・〇年の逃亡生活」っちゅうのも、見方をかえれば誰にでも当てはまるのじゃないだろうか。そのこころは?人は「死」から何とか逃れようといろいろやるものである。まるで逃亡犯が刑事から逃れるように。進む進路の危険は除去し不意の事故死に遭わぬようする。そして病気に捕らえられないよう健康法をやり薬を飲み、医学的措置を行う。これみんな「死」につかまらぬよう、いわば死からの逃亡生活である。とくに70歳を過ぎれば、確実に次々と捕まる人が増えてくる。70歳をスタートラインにして死から逃亡を始めると、10年逃れて周りを見てみると約半数が捕まっている。そして20年を過ぎる頃には数えるほどとなり、30年たって捕まらぬ人はほとんどなくなる。70歳の独居老人のさまを「哀しき〇〇年の逃亡生活」という所以である。
彼の逃亡を追い立てるものとして「全国区指名手配写真ポスター」がある。アッチャコッチャに貼ってある。彼の写真は長髪、区別しやすい明確な顔といっていいギョロ目と微笑、実にわかりやすい。しかし、この本を読むと彼の逃亡生活のほとんどはそんなポスターに追い立てられたようなことはなかったようである。本によると彼の大々的な全国公開ポスターは1989年以降と書いてあったが、これ以前にも彼のポスターを私は見た記憶がある。またポスターだけでなく、テレビで時々やっている「24時警察事件簿」の類のドキュメンタリーで、なんども全国公開手配犯の顔写真を示し、情報収集を視聴者に呼びかけたはずだ。殺人逃亡犯で時効寸前に捕まった福田和子もこのテレビ公開捜査がきっかけでつかまった。地道な職業を持ち定住生活を送ったのがよかったのだろうか。寄せられる情報も少なく、近年は皆無、ともかくポスターは効果がなかった。
そうそう、公開手配ポスターといえば、彼は写真でだがある映画に出ているのである。ほとんどの人は知らない。1981年封切りの「駅」で高倉健、倍賞千恵子主演している40年前に封切られた映画である。封切り時に見ているのだが、DVDが図書館にあるので久しぶりに二度見をした時である。それは彼の訃報を聞いた後であった。見始めたときは彼の写真がまさか出ているとは思わなかった。出るのは映画のおわりのほうで、警官の高倉健(後ろ姿の人物)が何気なく増毛駅(北海道)にはられたポスターを見るシーンである。このシーンの右のポスターに四人が掲示されている。この右上が高倉健が探している同僚の殺人犯の手配写真である。この写真は映画上の架空の犯人である(俳優・室田日出男が連続殺人犯役をやっている)、しかしその下(ポスターの右下)に貼ってあるのは紛れもない桐島聡 の手配写真である。映画の上で伏線となるこのシーンの手配写真は、全部架空でなく、リアルな手配犯もそのポスターに配置されているのである。DVDなので何度か巻き戻し、拡大し、静止画像で確認しが間違いなかった。本人の断りもなく(当然だが)映画に使われたが、まぁ、これも犯人逮捕のためのテレビ公開捜査のようなものなので、映画の中で架空の指名手配ポスターの素材として使われたとしてもクレームも来るはずはないだろう。
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