2024年7月30日火曜日

盆と月

  「盆と月」と聞いてはっきりした「あるイメージ」を思い浮かべられるだろうか。「うぅん~と、お盆と月、なぁ、盆と月の関係がわかれへんからイメージしにくいわ」と言われるだろうと思う。この言葉に対しては大人よりむしろ幼稚園児くらいの子どものほうが鮮明なイメージを思い浮かべるだろう。え?でも盆と月ってどのように関連付けて、そんな小さい子がイメージできるの?と疑問に思うかもしれない。まぁ、ためしに幼稚園児に聞いてみてください。するとすぐこのような歌になって返ってきますよ。、出た出たが、丸るい、丸い、まん丸い、のような月が

 なぁんだ、盆ってその盆(トレイ)かい、来月の12日からのお盆(盂蘭盆会)じゃないんかい、と思われたかもしれませんね。幼児もこの歌「月」の歌詞の、盆のような月が、は丸いお盆(トレイ)のイメージとしてとらえています。しかしこの歌の、「盆」のような、には器物である盆の意味以外の意味も込められていると私は思っています。

 実はお盆は満月とはほぼ同じでした。というのもお盆は近代になるまで旧暦で迎えていたからです。旧暦の12~15日のお盆の期間は、満月に近い月が夜空に出ていたのでした。百年前の徳島のお盆について書いたモラエスさんの随想を読むと、旧暦7月13日には霊を迎え盆祭りをし、次の14、15日は「盆おどり」をしたとあります。満月下のぼんおどり(阿波踊り)だったのです。

 今から90年前の昭和9年のポスターを見てみましょう。


 今と違って八月下旬に開かれていますが、この日は旧暦のお盆である7月13,14,15日に当たります。ポスターの踊り子の左上には大きな満月が描かれています。このポスターが今日のブログの主題の「盆と月」を視覚化したものと言っていいでしょう。今、お盆を旧暦でする風習は廃れましたが、一応言っておきますと、今年の旧盆は来月の満月の前三日間、16~18日となります。来月の18日が旧暦の7月15日となっています。もし今も旧暦で続けていれば、毎年必ず満月に近いお盆の夜だったのです。

 上のポスターでは満月は遠くに見えている街並みのすぐ上に大きく出ていますね。そして柔らかな黄色い光を放ち、輪郭はおぼろです。これは夏の満月の特徴です。太陽の高度とは反対になるので夏の満月は地上低く東から西へ移ります。そして夕陽が赤っぽくなるのと同じ理屈で低い月は赤っぽく、光はより柔らかみを帯びています。また水蒸気の多い夏の夜は輪郭もぼやけ朧になりがちです。さらに高度が低い時は月でも太陽でも見かけが大きく見えますね。これが反対の冬の満月だと月は天空に近く、皓皓と冴えわたった青白い月に近くなります。

 この夏の月と冬の月とどちらが親しみを感じられます?顔をグッと上に上げて見上げる月より、自然に仰げば視界に入る赤っぽい、朧な、夏の満月の方が親しみやすいでしょう。オオカミやバンパイヤが吠え掛かるような、月天心(天頂近く)にある青白く冴えわたった月より断然こっちの方ですよね。

 童謡の「月」のイメージもこのような高度の低い光の柔らかな満月でしょう。だから、盆のような月が・・という歌詞は形としての盆、という意味もあるけれども、旧暦7月の満月のお盆のころのような、という意味も兼ねていると私は見ているのです。

 さらに盆と月との関連というより連想について私の独断的見解を述べたいと思います。盆と月と聞いて、盂蘭盆会と満月と同じように思い浮かんだのが「海盆と満月」でした。

 肉眼でも光を放つ満月に黒い模様があるのがわかります。昔の人は肉眼で見たときに、この黒っぽい模様を、よくわからないままにその形からウサギやカニの形に見立てたものでした。しかし望遠鏡が発明されその黒い部分を見るともっとはっきりします。

 月の明るい部分は山がちな部分で乱反射からか明るくなり、それより暗く見える部分は平たん地のように見えたのです。その平坦地の部分はまるで地球の表面の海のようだったため、月のこの暗い平坦部は「〇〇の海」と各々名付けたとかんがえられています。もちろん月に海があるはずがないのですが、それがわかっている今でもこの平坦部は「〇〇の海」と名付けられています。

 この平坦部の「〇〇の海」という部分を私はまるでこれは月の「海盆」漢字の意味からは海の底の盆地)だ、と思ったのです。海盆を地学的に簡単に説明すれば『海底の大規模な凹所。規模はさまざまで、周囲を大陸、島弧、海嶺、海膨、海台などの高まりで囲まれている』ということになる。百聞は一見に如かず、日本近海の海盆を見てみましょう。下のようになっています。


 もし仮に地球の海の水を全部干上がらせてしまえば、まさに月の表面の「〇〇の海」と名付けた平坦部のように、この海盆の部分はなるのです。説明が回りくどくなりましたが、これが私の頭に浮かんだ(海盆)との連想でした。

 しかし後で調べなおすと確かに「〇〇の海」の部分は平たん地であり、盆地地形に近いものではあるのですが、地球の海盆のように全体的に低い部分か、と言えばそうでもないようです。ちなみに月の表側の「〇〇の海」と名付けられたものは15以上あるようですが、一般的には知られていません。唯一、月のどの部分かはわからないが、皆がよく名前を知っているものでは「豊饒の海」(今は豊の海とよぶ)があります。三島由紀夫の小説の題になってましたからね

 「盆と月」には関係ないのですが、今月の20日も満月でした(旧暦6月15日)、実はこの日の深夜、私の妹が逝きました。車の窓からは低い真ん丸な月が見え、どこまでもついてきました。涙のためかすこし朧にかすんでいるようにみえました。悲しくも印象深い夜の満月としてこころに強く残っています。

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